荒野にて
制作国:イギリス(2017年)
上映時間:122分
日本公開日:2019年4月12日
監督:アンドリュー・ヘイ
脚本:アンドリュー・ヘイ
出演:チャーリー・ブラマー、スティーブ・ブシェーミ 他
あらすじ:幼いころに母親が家出し、愛情深いがその日暮らしの父親と2人で生活する少年チャーリーは、家計を助けるため厩舎で競走馬リーン・オン・ピートの世話をする仕事をしていた。しかし、そんなある日、父親が愛人の夫に殺されてしまう。さらに、試合に勝てなくなったピートの殺処分が決定したという知らせを受けたチャーリーは、ひとりピートを連れ、唯一の親戚である叔母を探すため荒野へと一歩を踏み出す。
評価:★★★★☆
◆感想(ネタバレなし)
原題は『Lean on Pete』だそうです。“lean on~”で「~に頼る」という意味なので、私はてっきり「ピートを頼りに」みたいなニュアンスの題名かと思っていました。きっと孤独な少年がこの馬に支えられながら困難を乗り越えていく話なんだろうな、と思っていたのですが、実際にはLean on Peteは単にこの作品に出てくる馬の正式な名前というだけでした。全くもってこの話は“孤独な少年がこの馬に支えられながら困難を乗り越えていく話”ではありませんでした。ちょっとハートウォーミングな物語を期待していた私は結構痛い目にあいました
これからご覧になる方はご注意下さい。
この話は全編ヒリヒリするような絶望感というか、行き場のない感じに満ちています。この話の意地悪なところは主人公チャーリー(チャーリー・ブラマー)が出会う人達が完全な善人でもないが、かと言って悪人でもない人達ばかりというところにある気がします。どの人達も経済的ないし精神的にいっぱいいっぱいで、今自分が生きる場所を確保するのに必死な人ばかりです。チャーリーに新切にしてくれても、彼に居場所を与えるまでの余裕はどの人にもありません。明確な悪人が出てきてくれれば、そいつをやっつけてスカッとできるのですが、この物語はそんなに親切ではありません。
そんなこの物語の方向性を端的に示すのが、序盤でピートがレースで勝つ場面でしょう。使えない競走馬はいらないという厳しい現実が示された後に、ピートがレースで勝ってチャーリーが安心したのも束の間、実はこの勝利には裏があって…というこの場面は、チャーリーに居場所を与えてくれる人物かに見えた馬主のビル(スティーブ・ボシェーニ)や騎手のボニー(クロエ・セビニー)の生活がギリギリ成り立っているものであること示唆します。この場面以降、物語は急激に閉塞感を増していった印象を受けました。
繰り返しになりますが、ハートウォーミングな物語ではありません。別に馬が活躍する話でもないです。ただ、中盤でピートが物音に怯えるシーンがあるのですが、この時のピート役の馬の芝居が見事です(公式サイトによるとピートを演じたのはスタースキーという馬だそうです)。本当にに怖くて苛立っているように見えます。どうやって芝居をつけているのか気になりました。物語的には馬は活躍しませんが、馬のお芝居を観るつもりなら馬好きの人も楽しめる…かも。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
ピートを連れてチャーリーは荒野を歩いていくが、途中でバイクの音に驚いたピートが手綱を切って車道に飛び出してしまい、車に轢かれて死んでしまう。失意の中荒野から街に出たチャーリーはホームレスのシルバー(スティーブ・ザーン)に寝床を提供してもらえるが、彼は酔った勢いでチャーリーの所持金を奪おうとする。怒ったチャーリーはレンチでシルバーを殴打してしまう。自分のしたことに怯えつつ、チャーリーは伯母のもとに辿り着き、愛情ある伯母に慰められる。
◆感想(ネタバレあり)
ネタバレなし感想で述べたように馬と少年とのハートウォーミングな物語を期待していた私には色々堪えました![]()
その最たる場面はピートが死ぬ場面です。これは衝撃的でした
このシーンはピートが手綱を切ってしまうところから轢かれてしまうところまで割と長めのワンカットで撮られています。感覚としては手綱が切れただけで何も起こらなそう、と思った瞬間に車に轢かれてしまう感じで、ショッキングであると同時に呆気無さも感じる場面でした。
この話は、主人公チャーリーが、恐らく内心は感じていたであろう自身の無力さ受け入れる物語だったように思います。愛する父もピートも守ることができず、やったことと言えば自分のために酔っ払いに暴力を振っただけです。チャーリーが出会った人達同様、チャーリー自身もまた自分を守るだけで精一杯の人間の一人で、誰かを守ったりは出来ないのだと認める話だったのではないでしょうか。
たぶん良くできている映画なのだとは思います。でも出来れば今度はもっと馬と少年のハートウォーミングな話を作って頂けると…。
◆まとめ
・全編ヒリヒリするような絶望感に満ちている話
・ハートウォーミングな話ではないので御注意を