永岡慶之助『紅葉山―富岡製糸場始末』(青樹社) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

永岡慶之助『紅葉山―富岡製糸場始末』(青樹社)

 

永岡慶之助『紅葉山―富岡製糸場始末』(青樹社)

 

先週読んだ『日本浪人史』を上梓した西田書店が、刀江書院の業務を引き継いだ骨のある出版社であることから、そういえば刀江書院を作った尾高豊作の祖父が富岡製糸場の初代所長だったよなあと書棚を漁り、我が家で唯一の富岡製糸場についての本書を手に取る。

日本初の官営製糸場、創設までのその苦難が描かれた重厚な作品に違いないと思いきや、冒頭、幼い娘を連れた浪人が製糸場所長の尾高と感動の再会を果たし、期待はあっけなく破られる。

その後、富岡の絹糸商に身を寄せた父は彰義隊の生き残りであるがゆえに新政府への出仕を肯んぜず、矜持を守らんと市井で頓死、その息女が富岡を皮切りに日本製糸産業とともに成長していくといった話。

ここには、たとえば医学を志しながら女性であることによる苦闘を膨大な史料をもとに描き出した吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』のような、挫折であったり葛藤は描かれることもない。

あまりに平板なため作者もさすがにいけないと思ったか、娼婦に入れ込み身を持ち崩した糸問屋若主人のサブストーリーも展開されるが、とってつけた感は否めない。

また直木賞選考委員からも指摘されていたが、文体の古臭さ、こなれなさも目につき、まだまだ未成熟な作品といえるだろう。

それでも当時の製糸業界の一端を垣間見ることができるという意味では貴重な一編だし、深みはないにしてもエンターテイメントとしては悪くない。


ちなみに尾高豊作の祖父・尾高惇忠は渋沢栄一の従兄であり、渋沢栄一の娘と結婚したのが「日本の製紙王」と呼ばれた大川財閥の大川平三郎、その孫が「ライアン」の大川慶次郎

ちなみに大川平三郎は尾高惇忠の甥にあたるから、もう訳がわからない。

さらに渋沢栄一の伯父の玄孫が澁澤龍彦であったり、数多の著名人が陸続と名を連ね、いわゆる名族といわれる一門である。

渋沢一門の家系は複雑だが、以下の史料に含まれる家系図がもっともわかりやすい。

深谷市編「「渋沢栄一翁と論語の里」整備活用計画~ 道徳経済合一説発祥の地 ~