黒木曜之助『殺人幻野』(立風書房) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

黒木曜之助『殺人幻野』(立風書房)

kuroki黒木曜之助
殺人幻野』(立風書房)

高原弘吉、幾瀬勝彬と並んで、春陽ミステリの三大巨頭といえる黒木の12作目の長編。この人の垢抜けないペンネームと同様の、何ともいえぬ泥臭い作風に奇妙な魅力を感じてしまうのはわたしだけかもしれない。

ところがだ。相変わらずよくわからないタイトルのこの一編、意外にもなかなかのできなのだ。

若くして妻に先立たれ、企業スパイじみた副業で博打の借金を返済するやくざな新聞記者。彼をいつも調査に使っているデパートの社長から、またしても仕事の依頼が舞い込む。呼び出された料亭にて社長とその腹心たちから聞かされたそれは、中年の肉体労働者が泥酔した挙句、溺死という東北の何てことない事故死の再調査であった。社長とまったく関係のない事件の調査に釈然としないまま東北へと向かう記者を、うら若き美女が尾行を開始した。

といったあたりまで読めば、事故死した人物と社長たちとに芳しからぬ関係があるに違いないと思うわけだが、その背景に浮かび上がるのはさる歴史上の人物とゆかりのある秘宝の存在。

何ともありきたりな話だ。秘宝争奪の旧悪をめぐっての殺人か?と思いきや、どうもピントのずれた殺人が連発する。それをめぐってまた記者が駆けずり回るのだが、その調査で明らかになった動機が実に稀有壮大でびっくりだよ…と呆れていたところ、残り50ページあたりで事件が急展開。これが、また大丈夫なのかってくらいのひっくり返り方なのだ。

さらに驚くべきことに、こいつがまた残り10ページで、みごとなどんでん返し。ラストもまとまりをきちんとつけ、凡庸な秘宝争奪戦という当初の予想をいい意味で裏切ってくれた。

時折はさまれる謎の断章など、また黒木お得意の思わせぶりな伏線の放置プレイか?といった箇所も軒並み説明がつき、地方新聞記者という職業の実態やシニカルな主人公の心理も説得力をもって読める。つまり黒木にしては上出来な一編で、いわば普通によい作品なのだ。

黒木も普通に書けるじゃないか、と少し見直した作品であった。

★★★☆☆
ブログランキング・にほんブログ村へ(15)