「ザッヘル・マゾッホだよ」:ロス・マクドナルド『わが名はアーチャー』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

「ザッヘル・マゾッホだよ」:ロス・マクドナルド『わが名はアーチャー』

ロス・マクドナルド
わが名はアーチャー』(HPB664)

リュウ・アーチャーものの初期短編7つを収める。さすがにじっくりと人間像を書き込んでゆく長編のようなコクはないが、独特のトリッキーなプロットと、陰気で粋な比喩は短編でも健在である。

「俺たちは人に痛い思いをさせるのはきらいだし。あんたをしめあげる気はないんだ。……お前さん、名前は忘れたが──」
「ザッヘル・マゾッホだよ」私はいった。


これは悪人に殴られて気絶したアーチャーが目覚めたときのやり取りだが、不覚にも爆笑してしまった(「ザッヘル・マゾッホ」の意味がわからないひとはお父さんかお母さんに聞いてみよう)。

私立探偵が名前を尋ねられたときにちょっとした皮肉を加えて応じるところは、ハードボイルドでもっとも美味しい読みどころだと思うが、これなどはいままで読んだなかで最高だった。

ハメットは難しいし、チャンドラーはくさすぎるってひとは、ロス・マクあたりから攻めてみるといいかもしれない。

The Name is Archer”1955
★★★☆☆