胡蝶蘭がリビングにやって来てから、
一年一か月が経った。
生きているものがそこにあるだけで、
気配がしたり、匂いがしたり、
決して声はたてないのに
こちらの様子を伺っていることもわかる。
胡蝶蘭がやって来てから、
私はずっと言葉は発さず沈黙しているのに、
毎日泣いたり笑ったり怒ったり優しくしたり、
感情を丸ごと曝け出す私をジッと見つめて
慰めるように、応えてくれる。
ある時は花を咲かせ、
またある時は花を落とし、
枝だけになった丸裸の胡蝶蘭が
再び息を吹き返して蕾を付け出した。
一年のうちで3度目の春。
新しい花を咲かせ。
新しい季節を感じよ。
そう囁くように、
日に日に膨らむ蕾。
ぷうっとほのかに紅味がさして
頬を染めているかのよう。
心の浮き沈みと連動するように、
今日もただそこに鎮座する。