11/14読了

 

詳細:

殺人犯は、13歳。法は彼女を裁けない――。狐の面をつけた少女が、監禁した大人を次々に殺害する事件が発生した。凶器はナイフ、トンカチ、ロープ、注射器。常軌を逸した犯行は、ネット上で中継された。彼女は13歳の「刑事未成年」で、法では裁かれない。「だから、今しかないの」――。ミステリー界の話題をさらったデビュー作『法廷遊戯』に続く衝撃作!

 

感想:

著者は、弁護士であり小説家の五十嵐律人さん。デビュー作「法廷遊戯」が映画化され、現在放映中。本作は五十嵐さんの2作目。

 

たとえば貴志祐介さんは生命保険会社勤務の経歴があり、その知識と経験をふんだんに盛り込んだ「黒い家」。

 

たとえば知念実希人さんは現役医師で、「死神シリーズ」「祈りのカルテシリーズ」等、医師が主人公の作品が多数。

 

このように、特定の分野において、情報としての知識だけでなく実体験を通して書かれた小説というのは、とても興味深い。

 

本作のタイトルでありテーマである「不可逆少年」。(この場合「少年」は男子および女子を指す。)


初めて知った言葉だった。ここで改めて「可逆性」の意味を調べてみた。

 

可逆性:

ある系の状態が別の状態に変化したとき、外部と系との間でやりとりした熱と仕事を元に戻して、外部に何ら変化を残さずに系を元の状態に戻すことができること。

 

つまり「可逆少年」とは、罪を犯した後、教育や支援等を通して更生出来る者のこと。「不可逆少年」とは、そのような教育や支援があっても生物学的要因で更生出来ないor元に戻れない者のことを指す。

 

家庭裁判所調査官である主人公は、自身がまさに、家庭環境により非行に走っていた少年時代を過ごし、善き大人との出会いによって更生することが出来た「可逆少年」であった。

 

親の因子によって、自分も同じような異常性を持っているのではないかと恐れる瞬間があっても、自分自身の道を歩むということに重きを置いて、「やり直せない少年はいない」という信念のもと、過去の自分と似たような境遇の子供たちと向かい合ってきた。

 

しかし、13歳の少女による常軌を逸したフォックス事件がきっかけで、その信念が揺らいでしまう…というようなお話。

 

うーん…。なんというか…。感想がすごく難しい。

 

薬丸岳さんの青少年の心の闇を描いた本は、不幸な境遇、1つのボタンの掛け違いからどんどん悪い方に転落していく様子にとても心を痛めつつも、ものすごく考えさせられたり、一筋の希望の光が見えるラストに救われる思いを感じたりして、とても読みごたえがある。

 

本作も、ストーリーとしてはそのような展開なのにも関わらず、あまりにも悲惨過ぎてリアリティがないというか、登場人物や問題がとっ散らかり過ぎているというか…。

 

だから、”考えさせられる”ってよりは、茉莉・スナ・バクがあまりにも可哀想だという辛くいたたまれない思いの方が際立ってしまった気がした。

 

私は本作で、少年の可逆/不可逆性についてよりも、辛い家庭環境と学校生活でどこにも居場所がない子供たちはどうやって生きていったらいいんだろう?ということを一番思った。

 

昔からそのような子供たちは存在していて、ここ最近では「トー横キッズ」という存在が知られるようになってきた。

 

家と学校が世界のほぼ全てである子供たちにとって、そのどちらにも居場所がないということは、どんなに辛く孤独なことか。


また、そういう状況に追い込まれてしまう=そこに属する大人たちにロクな人がいないor助けになってくれるような大人の耳に届いていないということだと思うんだよね。

 

もし助けになってくれそうな人がいたとしても、それまで周りの大人たちからひどい仕打ちを受けていたとしたら、大人全体を信じることが出来ず、助けを求めることが出来なくなってしまっているんだろうな。

 

自分はもはや完全に大人の立場にいるから、どうしたらこのような子供たちが人生に絶望しないで済むような社会の仕組みを作れるのか、どうしたらこのような子供たちが助けを求められるような大人と出会えるのか、そして、子供たちが幻滅してしまうような大人にならないよう改めて我が身を正さなければ、というようなことを感じた作品だった。


ちなみに私は”不可逆少年”は絶対に存在すると思う。


本作は”不可逆少年”に対してどのようにしたらその子たちがうまく社会に適応して生きていけるようになるのか、についてが考察されていなかったことが、イマイチな感想になってしまった一番の原因かもしれない。