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蔵居さんは太郎さんの電話を受けて泣いてしまいました。

 

「まあ、泣かないで。そうだ終業後いつものところで一杯やろう」

「はい」

 

やがて終業になりました。

蔵居さんは制服から私服に着替えましたが、化粧も変えて仕事中とは全く違ったイメージに変身しました。

 

二人は終業後に立ち飲み酒場に立ち寄りました。

  

乾杯!

 


イっキー! ぐびぐび

 

プハー

 

以前は全く飲めなかった蔵居さんでしたが、ストレスの溜まる職場なので最近は香森店長の誘いに乗って居酒屋に行くようになり徐々にお酒にも強くなったのでした。

 

「店長、最近太郎さん空室が埋まらなくて頻繁に電話かけてくるんです」

「きょうの電話だけじゃないんだね」

「そうなんです。最初は丁寧な言い回しだったんですが、最近はひどい言い方をするようになっています。今日だって不動産屋が怠けているなんて言い出す始末です」

「そうか、それはひどいね」

「大家さんはいいわねえ。自分は何一つしないで電話で煽れば入居が決まると思っているんだから」

「そうだよねえ。我々がどんなに苦労しているか知らないから」

 

店長が相槌を打っていると蔵居さんは段々と怒りがこみ上げて来たようです。

 

「ね、店長、あのアホ太郎どうにかしてくださいよ。私、今度電話受けたら切れちゃうかも」

「これこれ、仮にもお客さんだからそんな言い方は良くないよ。

それよりもう一杯飲んだら?」

 「ねーちゃん、生お代わり!それと煮込み二つ」

 「はいよー」

 

 

二人が話をしているうちに、親会社の茂倉さんが店に入ってきました。

 

「こんばんは、立ち寄りました。あれ、蔵居さんも一緒ですか」

「あ、茂倉さん、今蔵居さん悩みを聞いていたんです」

「そうか。一体どうしたんですか」

「実は太郎さんの空室のことで」

「あ、実は僕のところにも電話が来たんですよ。こちらは二棟目の相談ですが、相変わらずローン審査が通らずめげていました。頭金もないのに二棟目を買うなんて無謀ですねえ」

 

それから茂倉さんは最近のチバラギエリアの現状を説明しました。

「我々多貫エステートも、昨年からチバラギ県エリアに進出したものの苦戦しています。やはり地主が相続対策でアパートを続々建てているのが原因です。アパートが乱立しているので大手の大東京パレスが一気に値下げキャンペーンを打ったのです。その為に家賃相場が急激に下がっていて利益が出なくなっています」

 

「どこのエリアも同じ状況ですね」

 

「太郎さんの物件は本当にラッキーでしたね。香森店長がニコポン光学の単身赴任者の需要掘り起こしたから」

「そうだよねえ。あの時、大学の同窓会に行かなければ今でも苦戦していただろうね」

「でも、今空室が出たら当時の家賃では苦戦しますよ」

「そうですね。いくらデザイナーズだからと言ってもやはり相場を無視した家賃設定は出来ませんからねえ」

 

そんな話が延々と続き、夜が更けていきました。

 

つづく      
     
   

 
 
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