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「お客さん」

太郎さんは誰かが小さな声でささやいているのに気が付きました。

目をうっすらと開けるとぼやけたものが見えました。


なんだか良くわからないので目を閉じました。

 

「もしもし、お客さん」

こんどは少し大きな声が聞こえました。

目を開けるとさっきよりははっきりしたものが見えましたが、まだなんだかわかりません。

また、眠くなり目を閉じました。

 

「もしもし。お客さん終点ですよ。
起きてください」

今度は大きな声でした。

目を開けたら、真っ黒な顔に目だけがギラリと輝いている駅員が目に飛び込みました。まるで銀河鉄道999に出てくる車掌の様でした。



 

太郎さんが目を覚ましたのは終点の駅でした。太郎さんは降りるべき駅を寝過ごしてしまったのです。

既に他の客は降りてしまいいつのまにかシートを占領して寝ていた太郎さんは駅員に起こされたのでした。

 



勿論既に折り返しの電車はありません。
朝までプラットホームで過ごそうかと思ったけど、駅員に追い出されてしまいました。
仕方なく駅前に一軒だけある深夜営業中の居酒屋に入り始発を待つことにしました。

 

店内には太郎さんと同じ様に寝過ごしてしまい、始発まで待つお客さんで一杯でした。

案内されたのは隅の席で、深夜にも関わらず賑やかに過ごす団体の脇で眠れないひと時を過ごすことになりました。

 

さっきまでさんざん飲み食いしていたのでもうお腹は一杯です。
ビール一本注文してちびちび呑みながら物件のことを考えました。


 



太郎さんは今晩の大家仲間の反応をみて、やっぱり自分の判断は正しいと確信したのです。

朝井先生や粕壁さんからは反対されたけど、あの物件は自分が買う運命にあったのだと思えました。

 

だから明日には加奈さんに電話で申込みしようと決心しました。

 

そんなことを考えながら過ごしているうちに夜も更けました。

 

結局、居酒屋に居座る事4時間が経過して朝5時に閉店しました。

閉店後は徹夜客と一緒に駅に移動し、そのまま始発電車に乗り込みました。

 

始発ですから勿論電車はがらがらです。太郎さんは居酒屋では隣の団体がやかましく眠れなかったのですぐに眠りに入りました。降車駅までうたたねするつもりだったのが深い眠りに落ちてしまいました。

 

次に目を覚ましたのは反対側の終点でした。丁度ラッシュの始まる時間だったので沢山の乗客が乗り込んできました。その物音で目が覚めた訳です。

 

太郎さんはそのまま乗車した折り返し電車で最寄り駅までたどり着き、疲れ果てて自宅に戻りました。幸い家族は全員出かけていて誰もいません。

 

とりあえず、会社には午後に出社すると連絡を入れました。電話先の上司の怒鳴り声を無視して電話を切りました。

 

そして、多貫エステートに電話し槍手加奈さんを呼び出しました。

 

 

つづく


     
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