検査のワケ | 本当にあった怖い話

本当にあった怖い話

本当にあった怖い話と意味がわかると怖い話を解説付きで書いています

832 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:00:25 ID:twFb08ZTO
養護施設始まって以来のトンコ数を誇る僕だけに行われる行為がある。登校前と下校後の持ち物検査だ。
通学鞄は筆箱の中まで見られ、制服のポケットまで厳しくチェックされる。毎日、続くそれを忍はニヤニヤしながら眺めていた。
図書室での会話から数日後の昼休み、忍に体育館の裏に連れて行かれた。
体育館の裏の道路向かいには件のシャブ中団地があり、学校と外界を切り離している冊はたやすく乗り越える事が出来る。

「僕は出ていかないからな」

トンコを示唆していると思った僕は強い口調で忍に断言したが、忍は片手をヒラヒラと振って笑っていた。

「お前に面白い物を見せてやろうと思っただけだよ」

そう言いながら忍は学ランを脱いで冊に引っ掛けた。そして長袖のシャツの左側をまくりあげて、僕の向かって突き出した。
手首と肘裏の中間くらいにピンポン球は半分にしたような、こぶがあった。

「何だ、それ?保健室で診て貰ったら?」

僕は至極、真っ当な感想を言ったはずなのに忍は弾けたように笑いだした。

「中身は空気だよ。痛くも何ともないから押してみろよ」

笑いながら忍が言うのにつられて恐る恐る、こぶを指で押してみた。


833 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:02:31 ID:twFb08ZTO
ブシュッという嫌な感触と共に、こぶが皮膚の下を移動する。慌てて指を離して忍の顔を見た。どこからか見られているような突き刺さるような視線を感じる。
忍はズボンのポケットから注射器を取り出して僕に見せる。

「これで皮膚と肉の間に空気を入れただけだよ」

笑いながら何でもない事のように注射器の針を腕に刺し、ピストンを押す。薄く皮膚が盛り上がり二つ目の、こぶが出来上がる。

「何、してんだよ。そのポンプもシャブ中団地からパクって来たのか?そんな馬鹿な事して楽しいのか?まさか…」

注射器だけじゃなく覚醒剤まで盗んだのか聞こうとした僕の言葉を忍が遮った。

「俺は何でも試してみなきゃ気がすまないたちなんだよ。最初は血管に空気、入れてみたかったんだけど押しても反発が強くて無理だった」

もう一度、忍が注射器を腕に刺して今度はピストンを引いて空気を抜く。吸い込まれるように、こぶが消えて何もなかったように元通りになった。

「ガス壊疽ってのも経験したくてさ、ここの土から泥水作って注射してみたりしたけど、意外と綺麗な土みたいでさ吸収されただけだった」

少し窪んだ地面を靴先で蹴りながら忍が真剣な顔をして見せた。


834 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:03:43 ID:twFb08ZTO
「あいつら、ネタは大事に隠してるけど道具の扱いは杜撰だからな。未使用のポンプくらい幾つでもパクれるよ」
「忍は他人だけじゃなくて自分の事もどうでもいいんだな。だから、平気で死ぬかも知れないような事が出来るんだ!」

その時、僕の中にあったのは忍にたいする恐れではなく、怒りだった。

「言っただろ?体なんて魂に比べたら大事じゃないって、それに何事も練習して経験しないと分からないからな」

笑いながら話す忍の言葉に何か引っ掛かりを感じた。

「誰かにやるつもりなのか?」
「お前になら空気ぐらいなら試してやってもいいけど?皮膚の下を動く空気の感触、試してみるか?」
「…嫌だ。そんな物、捨てろよ!気持ち悪い!」

忍にも忍が手にしている注射器にも激しい嫌悪感を感じた。そして、忍の手から注射器を奪い取るとそのまま近くの焼却炉に投げこんだ。
ふと、道路の向かい側に目を向ける。
一瞬だったがシャブ中団地の部屋の全てのベランダに人影が見えた気がした。


忍は一年生の時にここの冊を乗り越えシャブ中団地に嫌がらせをしに行っていた。
そして注射器の扱いを覚え、恐らく住人達の麻薬の隠し場所も知っているんだと確信した。
強く恨まれる行為も平気で行って来たんだろう。背後にあるシャブ中団地から感じるのは紛れも無い悪意だった。


835 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:04:45 ID:twFb08ZTO
去年、まだ一年生だった頃に耳にした噂話を思い出した。

『最近、あの団地に向かう救急車が多い』
『また死んだんだって』
『鉄パイプ持って自転車に乗ってる幽霊がウチの生徒を捜してるんだって』

本当の薬物中毒者の事なんて何も知らない一般家庭に育ったクラスメートの根拠のない噂話だ。
そう思って馬鹿馬鹿しいと思って聞き流していた。

その元凶を前に僕は何も出来ずにいた。
そして、荷物検査は卒業まで僕だけに行われ続けた。