復職 | 本当にあった怖い話

本当にあった怖い話

本当にあった怖い話と意味がわかると怖い話を解説付きで書いています

723 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/10(日) 23:45:16 ID:Nc5xjCme0
<復職-1>

<霊障>から一週間ほどして、先輩から催促の電話があった。「顔出せっつっただろうが」。。。忘れてた。
あんまり登場させたくないので仮名だけつけておく。H先輩は俺の5つ年上で、上司としてわがまま放題を俺に押しつけた人だった。
その頃、俺は社会の右も左もわからないガキだったから、事なかれ主義でH先輩に嫌々くっついてたんだが、同じ社にいた彼の反抗分子からも目をつけられて、結局退職するに到ったんだよ。

数年ぶりのボロい社屋を訪ねると、在社当時よりももっとメタボに傾いたH先輩が重そうな腰を上げた。
俺は、頭は下げたが、非好意的な表情をしていたと思う。
勧められた椅子を使うまでもなく、俺たちの交渉は決裂する。

H先輩「社に戻れ」
俺  「戻りません」

アクの強すぎる人だから部下がいつかないんだろうな、と、すぐにわかったからさ。

H先輩「働いてんの?」
俺  「いま、職を探してる最中です」
H先輩「じゃあいいじゃねーか」
俺  「よかないですよ。ここ以外で探します」
H先輩「嫌われたもんだなあ。電話までしてきておきながら」

あんたにしたんじゃねーよ、と、心の中で毒づきながら、俺は黙ってた。
実際、ここに連絡を取った本当の目的は、復職への足がかりにしたかったからなんだ。
H先輩が健在と知ったらその気はなくなったけどね。

H先輩「まあなんだ。正社員になるかどうかはともかく、外注としてこの仕事請けない?」

俺が固辞してたもんだから、先輩が折れてきた。
外注って発想はなかったなあ。

俺  「どんな仕事ですか?俺、ブランク長いですよ」
H先輩「だから簡単なやつね。U町って知ってるかな?」

妙に丁寧な説明なのが気味悪かったが、俺は話を聞くことにした。

俺  「知ってます。ぎりぎりで市内に入ってる僻地ですね」

俺の住んでいる市は県内で一番の面積を誇っている。
でも中心の駅のまわり以外は、ほとんどが田園か山林に組していた。
U町なんてのは、ちょっと前まで郡だったところだ。

H先輩「そうそう。突風被害に遭ったとこだ。その被災地が手つかずの状態で残されてるらしいから、ちょちょっと行って写真を撮ってきてくれ」


724 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/10(日) 23:46:45 ID:Nc5xjCme0
<復職-2>

話を進めにくいのでばらすと、俺の元の職場っていうのはフリーペーパーを扱っている弱小出版社なんだ。
市(近隣含む)の地域情報や広報を掲載して読者をつかんでる。
こういう雑誌って、見たことあると思うけど、スポンサー広告がほとんどだろ?
俺のところは大手のクライアントが1つ常駐していて、ペーパーの質を高めるために、プロのライターを派遣していた。
それがH先輩。だからこの人は偉そうなんだよorz

先輩の言う突風被害っていうのは、新聞の地方版に載ってたから俺も知ってた。
傘が飛ぶとかテントが倒れるとかってレベルじゃなくて、山林が根こそぎ傾くほどの規模だったらしい。
なんで先輩が行かないんですか?、と聞こうとして、やめた。
荒れて進入も難しい現場に行く気がなくなったんだ、この人は。

「写真を撮ってこられるようなところなんでしょうね?地割れを飛び越えていけって言われても無理ですよ」

依頼者がH先輩なだけに、しつこく確認する。

「ぜーんぜん大丈夫。危ないと思ったらそこで引き返しゃいい。地元情報誌としての面子が保てりゃいいんだ」

なるほど。それらしい写真が2、3枚掲載できればいいわけか。

「給料は?」

これも念押しすると、期待程度の額を提示してきた。おし!
「やります。締めはいつですか?」と聞くと、しゃあしゃあとして答えるクソH。

「今日の18時校了だ。デジカメで撮って、ネット喫茶から送ってくれ」

はえーよ(汗)。時計を見ると11時半。現場到着まで2時間はかかる。。。。なんとかなるか。
引き受けてから気がついた。あ。沙耶ちゃんを12時に迎えに行く予定だったんだ。。。

725 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/10(日) 23:48:05 ID:Nc5xjCme0
<復職-3>

現場は予想以上に惨々たる状態だった。
山というほどの奥地ではなく、村落から10分ほど入ったところの麓の林の中。
どう吹いたのかわからない。嵐は中心部から放射線状に大木をなぎ倒していた。重い固まりが落ちた跡みたいだ。思わずミステリーサークルを思い出した。
沙耶ちゃんはいつものように、俺を待たずに先に歩き出した。そう。家に帰してから仕事に来ようと思っていたのに、目を輝かせてついてきたんだ。

「すごいエネルギーですね」

直径60センチはある木の、折れた幹を見下ろしながら、沙耶ちゃんは呟いた。「自然っていいなあ」。
この光景を目の前にしての言葉とは、違わないか、それ(笑)。
地がめくれ上がって、何十本もの根が露出している場所で1枚撮る。被害のない場所から被災した上空も1枚。鬱蒼とした林のその場所だけ、快晴の空が丸見えだった。
数十センチの穴がそこかしこに空いてるし、枝葉は上から降ってくるしで、あまり長居したい場所ではない。残りの数枚を取ると、沙耶ちゃんの待っている倒木まで戻る。

彼女の上には光が降っていた。
きれいな栗色の髪と、細い肩と、そして紅茶色の瞳が、金色の日光に溶け込んでいた。
思わずシャッターを押すと、気づいた沙耶ちゃんは俺に笑顔を向けた。

「あ。お帰りなさい」

「退屈だったろ?」と聞くと、「いいえ。気持ちよく充電できました」と笑う。
「何か見てたの?」と、もう一度聞くと、沙耶ちゃんも、もう一度、とても明るい笑顔で「今は見えません。まことさんといるときは見えなくなりました」と答えた。


726 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/10(日) 23:49:11 ID:Nc5xjCme0
<復職-4>

U町にはネット喫茶なんてもんはないんで(というかネット環境が来ているかどうかも怪しい)、すぐに幹線沿いの店に飛び込んだ。メールの設定をし、撮ったばかりの画像をハードに流し込む。
さすが1000万画素。画質のクオリティは高い。5枚ほど添付して送信した。
「はあ。。。終わったー。。。あの人の仕事はこれだから嫌なんだよ」と愚痴ると、隣りでパソコンを覗き込んでいた沙耶ちゃんが、急に俺の胸に頭をすり寄せてきた。
驚いた。が。。。。なんとなく自然な気がした。
「余計なものが見えなくなった感想は?」の答えは「幸せな気がします」だった。

沙耶ちゃんは俺に惚れてくれてる。確信した。
彼女はいままで「普通の人間であること」以上に頑張ろうとしていた。だけど、そんなものは彼女を幸せにはしない。
等身大の女の子の沙耶ちゃんに、俺は、。。。今度は無理矢理ではなく、キスをした。
携帯がメールを受信したんで、こっそりとポケットから取り出して開く。H先輩からだった。

タイトル『5枚目の写真はなんだ?』

俺は笑いながら沙耶ちゃんに告げた。

「君の写真を送ったんだ。ついでにデートしましたって。たまには先輩を悔しがらせてやらないとww」

メールを開く。H先輩の本性が表れた文章で、こう書かれていた。

「ばかやろう。気味の悪いもん送ってくるんじゃねーよ!」

慌てて送信済みのメールを開くと、5枚目には、折れた大樹の横に、ぼんやりとした金色の人型の光が映っていただけだった。


733 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/11(月) 18:28:07 ID:SYS6hAXx0
やっぱり気持ちが悪いので、追加でこの章を入れさせてください。
不安を煽る書き方で切るのは嫌いなんだ。

<復職-5>

被災地から戻る途中で沙耶ちゃんをバイト先に下ろし、俺は会社に戻った。H先輩は「もう用はない」と言ったが、さすがに画像を送りっぱなしで無関心にはなれない。
採用した写真とゲラ刷りを見せてもらって、勘を少し取り戻す。そうそう。この工程が一番好きだったな。
それから不採用の画像を消去してくれと頼んだ。後で勝手に使われないための予防策だが、俺にそういう知恵がついていたことを、先輩は嘲笑した。
5枚目の画像を処理しようとしたH先輩の手が止まる。

「お前、この前の肝試しの後、ちゃんとお祓いに行ったのか?」

真面目な口調だったので、ついウケた。

「H先輩からそういう非現実的な言葉を聞くとは思いませんでしたよ。行かなきゃまずかったですかね」
「俺には関係ないから返事はできんな。お前が決めりゃいい」

自分から話振っといて、なんだよ。。。
H先輩は削除ボタンを押し、『異変』の痕跡を消し去った。
「また連絡する。俺の番号、着拒にするなよ」と皮肉る先輩。
そういえば、昔はそんなこともしたなあ。