以前酒は百薬の長と言われたが、脳梗塞やガンなどの死亡リスクは飲酒量ゼロが最もリスクが低い。
ビタミンD 424– 438)
,ビタミンE 439– 442)
,ビタミンC 442– 445)
いずれのビタミンも通常の食品から適正に摂取し,
サプリメント等の積極的な利
用は有効性および安全性も考慮すると推奨されない.
(2023 年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン」)
アルコール
アルコールの多量摂取(純アルコール換算およそ 46~
60 g/日以上)は,CADや脳卒中の危険因子である.一方
で,これまで軽量から中等量にかけての飲酒はむしろ心血
管疾患のリスクを低下させる(Jカーブを呈する)と報告さ
れてきた471– 482)
.ただし対象者が有する合併症が多い場合
は,この予防的効果が消失していたとする報告もある482)
.
また,不定期に多量飲酒する場合は,CADのリスクを高
めることがコホート研究あるいは症例対照研究のメタ解析
で示されている483)
.最近の質の高いコホート研究に限った
メタ解析では,少量飲酒による総死亡リスクの予防的効果
は消失し484)
,55歳以下の若年者ではCAD死亡の低下効
果は認められていない485)
.261,991人のヨーロッパ系集団
を対象としたメンデルランダム化による検討では,飲酒量
が少ないほどCADリスクが低く,Jカーブに否定的な結果
であった486)
.中国と南アジア領域におけるメンデルランダ
ム化解析では,飲酒量とCADリスクに有意な量反応関係
が認められなかった一方で,脳卒中リスクは脳伷塞・脳出
血ともに飲酒量と単調増加的な関連が報告されている487)
.
195ヵ国・地域のデータを統合した研究では,CADでは純
アルコール換算約10 g/日以上からリスクが上昇したもの
の,CADを含むすべてのアルコール関連健康障害(全死
亡および発がん488)
を含む)は飲酒量ゼロが最もリスクが低
く,飲酒量の増加とともに上昇した489)
.
このように,多量飲酒はCADを含む循環器疾患の危険
因子であること,少量摂取によるCADへの予防効果も明
確でないこと,脳出血の増加やがん発症などの健康障害リ
スクを考慮すると,アルコールの摂取は従来の方針に準じ
て25 g/日以下39)
,あるいはできるだけ減らすことが望ま
しい.
食品選びのポイント
純アルコール換算量は,お酒の量(mL)×[アル
コール度数(%)÷100]×0.8で計算する.
(例)純アルコール換算25 gは次のようになる.
ビールで大瓶1本(633 mL)
日本酒で1合強
焼酎(アルコール25%)で 0.7合(焼酎6:水4
として,湯割りや水割りで飲む場合)
ワインで250 mL程度
食品選びのポイント
1)一般的に,まず適正な総エネルギー摂取量と適正
な体重を維持することが前提であり,脂肪エネル
ギー比率20~25%,炭水化物50~60%に設定す
ることが奨められる.
2)食塩摂取量の目標については,6 g/日未満を目標
とする.
3)脂身の少ない肉を摂取し,加工肉は控える.牛
乳・乳製品には,血清コレステロールを上昇させ
る飽和脂肪酸とコレステロールが含まれる.一方
で,これらはカリウム,カルシウム,マグネシウ
ム,乳たんぱく質の摂取のために有益である.し
たがって高血圧,脂質異常患者では低脂肪・無
脂肪製品が奨められる.バター,ラード,ココ
ナッツ油は飽和脂肪酸が多いため,これらとこれ
らを用いた食品の摂取過剰にならないように注意
する.飽和脂肪酸は総エネルギー量の7%未満を
目標とする.
4)魚食はn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取のために奨
められる.
5)トランス脂肪酸はマーガリン,ショートニング,
ファットスプレッドを用いた菓子や揚げ物などの
加工食品に多く含まれるため,これらの摂取を控える.
6)鶏卵の卵黄はコレステロールを多く含むため(お
よそ 220~240 mg/個),高 LDL-C血症または糖
尿病患者では制限を考慮すること(コレステロー
ル摂取を200 mg/日未満),また過剰摂取は健常
人でも控えることが望まれる.魚卵,子持ち魚や
小魚あるいは内臓類(レバーやモツ)などはコレ
ステロールが多いので,摂り過ぎないように注意
する.
7)食物繊維は,生活習慣病の重症化予防にはおお
むね25 g/日以上の摂取が推奨される.なかでも
穀類では,白米よりも麦飯,玄米,七分づき米
(胚芽精米),雑穀類,また白パンよりも全粒穀パ
ンのほうが食物繊維を多く含むために推奨され
る.野菜・果物は,動脈硬化性疾患の発症予防
のために積極的に摂取する.
8)果糖を含む加工食品の摂取量を減らすことを推奨
する.
9)日本食の特色である海藻や大豆・大豆製品,そし
て地中海食の特色であるナッツ類を摂取する.
10)通常の食品から,いずれのビタミンも適正に摂取
することが心血管疾患リスクの低減,適正な血清
脂質の維持に望ましい.
11)多量飲酒(46~60 g/日以上)はCADのみならず
循環器疾患・がんなどの危険因子である.近年の
質の高い研究から,従来いわれていた少量飲酒の
CAD予防効果を否定する結果が報告されている.
脳出血の増加やがんのリスク上昇を含むアルコー
ル関連健康障害リスクを考慮すると,アルコール
の摂取は25 g/日以下,あるいはできるだけ減らす
ことが望ましい.
食品選びのポイント
日本人の食塩摂取源のおよそ70%は調味料であり,
添加を少なめにする.食塩を多く含む食品には,梅干
や漬物,味噌汁,海産物の干物などの保存食品,か
まぼこなどの練り製品,加工肉(ハム,ベーコン,
ソーセージ,フライドチキン)などがあるため,重な
ることを控える.麺類のスープやおでんの出汁などを
残すのも工夫の一つである.
食品選びのポイント
1)肉・加工肉
日本人のSFA摂取源としてもっとも多いのは食肉
である.コホート研究のメタ解析では,獣肉(牛,豚
肉など),加工肉(ベーコン,ソーセージなど)の摂取
量増加により総死亡リスク,CAD,脳卒中,心不全
リスクの増加を認めた304, 305)
.血清脂質との関連をみ
ると,獣肉,加工肉でLDL-Cは上昇するが,家禽肉
でも鶏もも(肉)皮つきなどSFAを多く含む食品で上
昇する.したがって,脂身の少ない肉を摂取し,皮つ
きは避け,加工肉は控える.
2)乳製品
乳製品には飽和脂肪酸が多く含まれ306, 307)
,乳製品
摂取はLDL-Cを上昇させる308– 314)
.一方,低脂肪乳,
無脂肪乳あるいは脱脂粉乳は血清脂質を改善す
る315– 317)
.また,牛乳から摂取されるカリウム,カルシ
ウム,マグネシウムの増加は降圧に作用する307, 318)
.乳
清タンパク質摂取にも有益である.よって総エネルギー
や飽和脂肪酸の過剰摂取を避けるとともに,カリウム,
カルシウム,マグネシウム摂取を増やす食事パターン
を考慮し,低脂肪乳製品を利用することが望ましい.
3)魚
魚の摂取は奨められる.魚卵,子持ち魚や小魚は
コレステロールが多いので摂り過ぎないように注意
する.
4)バター,ラード,ココナッツ油
バター,ラード,ココナッツ油はSFAが多いため,
これらとこれらを用いた食品の摂取過剰にならないよ
うに注意する.
5)トランス脂肪酸
トランス脂肪酸はLDL-Cを上昇させ,マーガリン,
ショートニング,ファットスプレッドを用いた菓子や
揚げ物などの加工食品に多く含まれるため,これらの
摂取を控える.
食品選びのポイント
1)鶏卵
日本人のコレステロールの摂取源は,卵50.1%,肉
20.5%,魚介18.1%である327a)
.コレステロールを含む
食品はSFAも含むことが多いこと(肉はSFAも含むこ
とが多いが,鶏卵とエビはSFAに比してコレステロー
ルが多い),コレステロールの吸収率が個人によって
大きく異なること,コレステロールは全身で合成され,
肝臓での合成は10%程度ながら血清リポ蛋白の70%
程度を調節していることなどにより,コレステロール
摂取量が血清脂質に及ぼす影響は複合的で個人差が
あ る(hyper-responder,hypo-responder)328, 329)
.鶏
卵摂取に関して,メタ解析では,卵黄摂取で TC,
LDL-C,HDL-Cは上昇する330)
.またhyper-とhypo-
responderで分けた場合のメタ解析では,鶏卵摂取はhyper-responderで有意にLDL-Cを増加させ,hypo-
responderでは有意でなかった331)
.糖尿病患者に限る
と,鶏卵の摂取が多い群で心血管疾患,特にCADの
発症または死亡が増加するというコホート研究やその
メタ解析がある332– 336)
.したがって,高 LDL-C血症,
また糖尿病患者では制限を考慮すること,健常人でも
コレステロール摂取量が増加すればLDL-Cが上昇す
ることから,過剰摂取は控えることが望まれる.
2)魚卵,子持ち魚や小魚あるいは内臓類(レバーや
モツ)などはコレステロールが多いので,摂り過ぎな
いように注意する.
3)鶏肉でも,常用量では鶏もも(肉)は鶏むね(肉)よ
りコレステロール含量が多い.また鶏皮も常用量では
SFAだけでなくコレステロールも多く含むため,皮付
きは避ける.
食品選びのポイント
1)穀物
穀物は多くの地域で主食となっている.主に米,
麦,トウモロコシ,イモなどであり,成分は炭水化物
が主体である.主にどのような種類の穀物を摂ればよ
いのかは明らかでない.未精白の全粒穀物は総死亡354– 357)
,心血管疾患死354– 357)
,CAD354, 358)
,心血管
疾患354, 359)
の発症を抑制している.玄米の効果につい
ては,動脈硬化性疾患発症への効果をみた大規模研
究はなく,血清脂質に及ぼす影響も一定していな
い360, 361)
.一方,水溶性食物繊維が豊富な大麦やオー
ツ麦の摂取は,血清脂質を改善する362– 364)
.またソバ
の摂取は,コホート研究のメタ解析で血糖値,TC,
TGの低下に関連していた365)
.
なお,食事のglycemic indexやglycemic loadは食
後血糖値に影響するが,総死亡,心血管疾患発症と
そのリスク因子に対する効果は一定せず,明確な結
果が得られていない366)
.
2)野菜・果物
欧米やわが国のコホート研究のメタ解析では,野菜
あるいは果物,あるいは両者をあわせた摂取は用量依
存的に総死亡,CAD発症,脳卒中発症,あるいは 2
型糖尿病発症リスクを低下させている367– 376)
.野菜・
果物については,動脈硬化性疾患の発症予防のため
に積極的に摂取するが,TGと尿酸(果糖はリン酸化
に際してATPを消費しプリン分解が亢進する)377)
の
上昇の可能性を考慮し,果物の過剰摂取は控える.
加えて野菜は漬物による食塩摂取量増加に注意す
る378, 379)
.なお果物については,缶詰の摂取で総死亡
や心血管疾患死亡が増加することが報告されてい
ることから354, 362)
,新鮮な果物を摂取することが望ま
しい.
3)海藻
海藻は,食物繊維,ビタミンやミネラルを含み,日
本食の中で習慣的に摂取されている.海藻を含む日
本食パターンが総死亡や心血管疾患死亡リスクを低
下させるとする報告380– 383)
や,海藻をほぼ毎日摂取す
る群はほとんど摂取しない群に比較してCADの発症
リスクが減少した(男性24%,女性44%減少)ものの,
海藻摂取と脳卒中リスクとの間に関連はなかったとす
る報告(日本人対象のコホート研究)もある384)
.一方,
CADの死亡リスク385)
,あるいはCAD発症リスクに
有意な減少はなかった386)
とする報告もある.いずれ
も観察研究によるものであり,結論として,海藻摂取
はCADや脳血管疾患の発症や死亡を抑制する可能性
はあるが,その結果は一定していない.なお,海藻は
ヨウ素を高濃度に含むこと,ヒ素含有量の高いものが
あることから,過剰摂取(ヨウ素は甲状腺機能低下症
や甲状腺腫を起こす可能性)に留意する必要がある.
果糖を含む加工食品
果糖を含む加工食品(砂糖を含む)の大量摂取は,エネル
ギー摂取の過剰,肥満,TGの上昇,インスリン抵抗性増悪,
2 型糖尿病の発症を介して,CADのリスクを高めることが
懸念されている.欧米を中心としたコホート研究とそのメタ
解析から,砂糖飲料の摂取量が多いほど総死亡,心血管疾
患,CAD,脳卒中,体重増加,高血圧あるいは2型糖尿病
のリスクが高いことが報告されているが,研究によって結果
は必ずしも一致していない387– 394)
.コントロール食に果糖を
追加する(総エネルギー摂取量が増える)介入試験ではTG
を上昇させた395)
.追加摂取では食後TGの上昇も認められ
ている396)
.また,RCTおよび非RCTを含めて用量を解析し
た結果,果糖摂取100 g/日以上では空腹時 TGが,50 g/日
以上では食後 TGが有意に上昇したとの報告がある 397)
.
よって果糖を含む加工食品の摂取量を減らすことでTGの
低下が期待できる.以上のことから,CADに及ぼす影響の
可能性を考慮し,その摂取を減らすことを推奨する.
5.7
大豆および大豆製品
日本食の中で大豆および大豆製品は習慣的に摂取されて
いる.日本および海外でのコホート研究のメタ解析では,
大豆製品の摂取と動脈硬化性疾患との関連について一貫
した結果は得られていない398– 400)
.一方,日本のコホート
研究では,大豆・大豆製品の摂取量が多いと,脳卒中リ
スクが低いことが報告されている401, 402)
.食品としての大
豆・大豆製品や大豆タンパク,またはイソフラボンの動脈
硬化性疾患危険因子に関するRCTのメタ解析やシステマ
ティックレビューには,TCあるいはLDL-C低下が認めら
れた 403– 405)
とするものと,認められない 406, 407)
とするもの
があり,大豆・大豆製品の摂取はCADおよび脳卒中の低
減に関与する可能性がある.
5.8
ナッツ類
ナッツ類は地中海食,DASH食や菜食を構成する重要
な食材の一つとして知られ,アーモンド,ヘーゼルナッツ,
ウォールナッツ,ピスタチオ,カシューナッツ,マカデミ
アナッツ,ピーナッツなどを含む.多くの観察研究で,
ナッツ類摂取と心血管疾患リスクとの間に負の関連が報告
されている408– 416)
.ナッツ類と心血管疾患,CADとの関連
を観察したコホート研究のメタ解析では,ナッツ類を摂取
する者で,心血管疾患発症,心血管疾患死亡,CAD発症CAD死亡リスクはそれぞれ 15%,23%,18%,24%低下
していたと報告された 417)
.またナッツ類の摂取は TC,
LDL-Cを低下,あるいはnon-HDL-Cを低下させることが
報告されている418– 423)
.このようにナッツ類の摂取は動脈
硬化性疾患発症予防に有用な可能性があるが,わが国に
おけるエビデンスは十分ではない.
5.9
ビタミン
ビタミンD 424– 438)
,ビタミンE 439– 442)
,ビタミンC 442– 445)
いずれのビタミンも通常の食品から適正に摂取し,ビタミ
ンDでは血中25(OH)D濃度を適正に維持することが心血
管疾患死亡または発症リスクの低減,適正な血圧の維持に
望ましい.サプリメントによるビタミン摂取の効果は一定
していない445– 463)
.むしろ,ビタミンDにカルシウムを併
用した場合の脳卒中のリスクの上昇464)
,ビタミンE単独介
入による心不全465)
や,ビタミンC単独介入による糖尿病
を有する閉経後患者の心血管疾患死亡率の有意な上昇466)
,
またはビタミンEとビタミンCの併用介入によるCADを有
する閉経後患者の総死亡率のリスク上昇467)
,ビタミンE介
入によって出血性脳卒中リスクが有意に上昇することが報
告されている468, 469)
.よってサプリメント等の積極的な利
用は有効性および安全性も考慮すると推奨されない.上記
以外に,たとえばビタミンAやβカロテンの過剰摂取でも
健康障害を引き起こすために,一般的には奨められていな
いことから470)
,他のサプリメントも適正に摂取するよう注
意すべきである.
※Webから