私達が、

現在の所に引っ越して、五ヶ月になる。



「マンションなんかで、死にたくない!」

「ここは、人間の住むところではない!」

好きで、

老後の為に、

買っておいた、自慢のマンションだったのではないのか。

いや、違う!

私のわがままでしょうか。

いま一度、終のすみかに挑戦した。

ならば、

見栄などはらず、

分相応の、

終の棲家、なんとかならないの?

やれば出来る、

根拠の無い自信で、

それでも、

なんとか

出来た。



それは、

小さな、

小さな、

平屋造りの

年寄りの二人暮しには、もう充分な家。

新開地なので、

まだ、ぽつり、ぽつり家が建ち並んでいる。

唯一、隣に面した敷地に、

礼儀正しく、

感じの良い、若夫婦と、

三歳になる、色白の可愛い男の子が住んでいる。

初めて、自己紹介してもらった時、

「お名前は?」

と、聞けば、

お父さんが、「ジョウ」です、と。

漢字文字で、どう書くのか、想像もつかない。

私らのような昭和の、古ーい人間は

その、名前をきいただけで

すかさず、

「おー、明日のジョーか」

「いや、エースのジョーかな」

などど、突っ込んでみるが、

多分、ジョウ君のお父さんだって、

なんの、こっちゃー

だろう。



ジョウ君は、

人見知りもしない、

好奇心旺盛な男の子と見うけられる。

イクメンパパと、

外で元気に遊ぶ姿を見ているだけで、

隣に住む、年寄夫婦も、元気をいただける。



やっぱり、男の子

ある時、窓際に置いている

マメルリハインコに、

とても興奮して興味を示した。(インコのしんすけは、震え上がっていたが)



若夫婦は、

共稼ぎで、

ジョウ君は日中、奥さんの実家のお母さんが、面倒を見てくれているそうだ。

ある時、

外に出ていた旦那が、

いきなり、ジョウ君を抱いて家に入ってきた。

「どうしたの」

「行くか?」と聞いたら、

「うん」、というので、連れてきたと言う。

それって、誘拐じゃない、

大丈夫なの、ときけば、

父親が、洗濯物を干していたので、

「連れて行っていいかな」

と確認をとって、連れてきたと言う。

そうだろうな、

旦那でなくても、

私でも連れてきたくなる程、

ジョウ君は可愛い。



ジョウ君は、初めて来た家が珍しいのだろう、

ジャスト、

もらわれてきた子猫がよくやるように

一部屋、一部屋、確認するように、

さして広くもない家ではあるが、ぐるぐる走り抜けている。

一応、年寄仕様のバリアフリーではあるが、

人様の、大事なご子息、

転んだりしたら大変と、ハラハラしながら後を追う。

ジュースを飲ませ、お菓子を食べさせる。

もう、我が家では、ジョウ君用の菓子類は、用意してあるのだ。

旦那が自分の部屋で、

何か音楽を聴かせている。

本物の孫がいれば、

童謡でも買い揃えて置くのだが…

旦那が聴かせているのは、

えっ、

「ジャズか!」

それでも、ジョウ君は旦那の膝の上で、大人しく聴いていた。

これって、孫と遊ぶ疑似体験かな、

しばしの、幸福感。



我が家には、結婚して二年になる娘夫婦がいるが、

未だ、なんの兆しも

嬉しい便りは…ない。



今日の、夕方

お隣のジョウ君のお父さんから、

電話があった。

「仕事が早く終って、ジョウと遊ぼうと思ったら外が雨なので、ジョウと、そちらにお邪魔していいですか」

いいに、決まってる。

なんと、嬉しい電話ではないか。

でも、

タイミングが悪かった。



残念…

我が家は

今、雑菌の巣窟。

出来る事なら、

ジョウ君の顔を、旦那に見せてやりたい。

見たら、もう少し元気になるかも知れない。

だが、

幼子に、ジジイ、ババアの、ゲホゲホ菌を浴びせるわけにはいかない。

泣く泣く、

ジョウ君、またね、と言って電話を切った。