例の迷い鳩を、郵便局に持ち込む。

飼い主さんに言われたとおり、発送伝票には、

「ウズラ」と書く。

窓口で、「ウズラですか?」

と、聞かれれば

私は、

「はい、そうです」

と、白々しい嘘を言い、

得意のタヌキ顔をする。

が、

ここで、待ったがかかった。

受付の女性が、困った顔をして

奥に引っ込んで、なかなか帰って来ない。

嫌な、予感がした。

「ウズラは、前にも送ったんですけどねえ」

と、ダメ押しの私の嘘に

もう一人の受付の女性の、郵便局員も、

「見てきます」

と、言って

奥にひっこんだ。

かくして、郵便物を受け付けする所は、無人になった。

田舎の、郵便局は、

いや、郵便局そのものが、のんびりしている。

客が来れば、

居なくなった(二人も)、局員に代わり

後でデスクワークをしている誰かが、ササッと出て来て、慣れた対応をする。

市役所にお昼時に行くと、

普段、何もせず踏ん反り返っている

管理職が、ここぞと、対応する雰囲気に似ている。

つまり、人、そんなに要らないんじゃない?

郵便局も、

民営化して久しいが、

なんだか、やっぱり、

「親方日の丸」的な雰囲気が残っていた。

「県内なら、取り扱うんですが、ここから長野までは、東京経由で行くので、ウズラが死んだりしたときは引き取りに行かなきゃならないんです、駄目なんです」

結論、ウズラこと、鳩くんは持ち帰りと言う事になった。

だが、私は、

「はい、そうですか」とは納得が行かなく、

まして飼い主でもない私は、途方に暮れ、

「実は、保護した迷い鳩なんです」

「なんとか、飼い主の所に返してあげたいんです」

と、食い下がった。

すると、

「えー、鳩なんですか」

と、郵便局員は、驚き、

また、奥に引っ込んだ。

出て来た、局員の言う事には

日本レース鳩協会のほうで、一部の郵便局と、提携して、鳩の宅配をしていると言う。

そこは、ここから車で一時間近くにある郵便局であった。

何ということか!

正規のルートが、あるのに鳩をウズラと偽る事を要求、

それも、

「○○日は午前中は、病院なので、午後からの時間指定で」などと、

ちゃっかりしたことを言っていた、声からしてもジジイの飼い主

私は、心の中で、ジジイを呪った。

鳩は、また、我が家に戻ってきた。

だが、悲劇はそこからだった。


次の日、犬小屋とはいえ、新居に関してはいろいろやる事があって忙しいなか、

なるべく鳩に負担がかからないよう(小さな箱に入れられるので)

夕方ギリギリまで待って、一時間もかかる指定された郵便局に、旦那と二人で出向いた。



旦那手作りの、段ボール箱にいれられた、鳩は

みごとに、拒否された。

理由は、正規の手続きをしていないと、鳩は運べないというのだ。

正規の手続きとは、日本レース鳩協会からの、ハト専用の箱と、発送伝票が必要とのことなのだ、

知るか、そんな事、

私は、また途方に暮れた。

つまり、今日もまた、鳩を持ち帰ることになる。

がっかりしていたところ、信じられない展開

ここで、旦那がキレたのだ!

普段なら、こうゆう場面で速攻キレて、キイキイ声をあげて、

食って掛かるのは、私と相場が決まっていた。

普段、理論派で

「人は話せば分かる」

が、信条の旦那は、声を荒げる事はない。

揉め事があっても、

普段は、

刑事ドラマでいうところの取調室の、荒手の刑事役が私で、もう一方の優しくなだめ役を旦那が演じるはずだった。

なだめ役が、怒ったら、怖い。

私は、喚いている旦那が恥ずかしいので、

私はこの人とは関係ありません的、に、離れたところで、

日本レース鳩協会に電話する。

事情が分かった。

ジジイは、まさしく、会員だった。

電話口の協会の人が言うには、その手続きを、飼い主が、やらなければならないそうだ。

つまり、飼い主が協会に、連絡して、

それから、私のところに段ボール箱等が、届けられ、

それから指定の郵便局での、発送なのだ。

私は、今までのいきさつ、を話す。

鳩の飼い主に連絡したら

ウズラと書いて出してくれと頼まれ、

郵便局で拒否され、持ち帰り、また今日一時間もかけて、来たんだよ

来週は引っ越しでこちらも、困っているんだよ。

すると、協会の人は

「近くに交番はありますか」

と、言ってきた。

だてに、長生きしてきたわけじゃない、意図する事はすぐわかった。

困った時の、最終手段は

鳩を拾得物として、交番に届けろと言うことだろう。

ここで、私がキレた。

「そんな事できません!」

交番で、拾得物として扱われる鳩が、我が家以上の待遇が受けられるわけがない。

「この鳩は、ウチで預かります!」

私の、細やかな動物愛護の精神に、協会の人は、平謝りしていた。

結局、

飼い主抜きで、直接、伝票と、箱をこちらに送るということで、話はついた。

それが、届くのは明後日になる。

鳩も、私達も、なんの因果で、こんな事になったのか‥

キレた旦那も疲れている。

今日は、二人で、犬小屋のフローリングにガラスコーティングをやった。

コストコに、物置を引き取りに、行かなければならない。

やる事、ありすぎなのだ‥

引っ越しまで、あと、五日。

鳩は、最低でも、あと三日、我家に逗留、家には帰れない。

鳩も一緒に、引っ越しになりかねない。