
「うん・・うん・・わかってるよ、そんなの。
・・誰もいないけど・・・。
今外だから切るね。はいはい」
最近の田舎の母親からの電話は専ら、結婚しなさいって話題ばかり。
東京の大学を卒業して、そのまま居着いてしまった。
ここにいる理由もない。
だからといって、帰るキッカケもない。
最近は、さすがに、年老いた両親を安心させたいとも思うけど、
なかなかそういう相手もいない。
ここまできたら、
勢いだけで恋愛も出来なければ、親の評価は関係ない・・・。
なんて言ってられない。
色々、しがらみや制約が出来て、不自由になる。
だけど、それを取るわけにはいかない。
今さらリスクのある恋は出来ない。
傷付くのも嫌・・何より、面倒だ。
駅前のコンビニで電気料金の支払いをした時、
店員の男の子が、コンビニのカードありますか?
と聞いてきた。
さっきの電話で母親に、彼氏がいるのか聞かれて、
いないと答える娘をどう思っただろう・・
そんなことに気を取られていた私が出したのは、
浦西和也と書かれた名刺だった。
間違えて出した名刺を受け取ってしまった彼は
「これ名刺・・」とだけ言った。
そこで私も気付き、慌てて名刺を受け取り、
しかも男性の名刺を出してしまったことに、
少し恥ずかしさを持ってしまい、
照れ笑いをしながら「すみません」とだけ言った。
彼は一瞬私の顔を見て、止まった。
ほんの、本当に、少しだけ、
彼と見つめ合ったが、
彼はすぐに「いえ」とだけ言って、
目線を伏せた。
それが彼との出会いだった。
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