年上の女性 scene1


「うん・・うん・・わかってるよ、そんなの。

・・誰もいないけど・・・。

今外だから切るね。はいはい」



最近の田舎の母親からの電話は専ら、結婚しなさいって話題ばかり。

東京の大学を卒業して、そのまま居着いてしまった。

ここにいる理由もない。

だからといって、帰るキッカケもない。



最近は、さすがに、年老いた両親を安心させたいとも思うけど、

なかなかそういう相手もいない。

ここまできたら、

勢いだけで恋愛も出来なければ、親の評価は関係ない・・・。





なんて言ってられない。



色々、しがらみや制約が出来て、不自由になる。

だけど、それを取るわけにはいかない。

今さらリスクのある恋は出来ない。

傷付くのも嫌・・何より、面倒だ。



駅前のコンビニで電気料金の支払いをした時、

店員の男の子が、コンビニのカードありますか?

と聞いてきた。

さっきの電話で母親に、彼氏がいるのか聞かれて、

いないと答える娘をどう思っただろう・・



そんなことに気を取られていた私が出したのは、

浦西和也と書かれた名刺だった。

間違えて出した名刺を受け取ってしまった彼は

「これ名刺・・」とだけ言った。

そこで私も気付き、慌てて名刺を受け取り、

しかも男性の名刺を出してしまったことに、

少し恥ずかしさを持ってしまい、

照れ笑いをしながら「すみません」とだけ言った。

彼は一瞬私の顔を見て、止まった。



ほんの、本当に、少しだけ、

彼と見つめ合ったが、

彼はすぐに「いえ」とだけ言って、

目線を伏せた。



それが彼との出会いだった。



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