母が倒れてから4日が経った5月7日。
(※病院に運ばれたのは5月3日の深夜で
私に連絡がきたのは5月4日)

この日は仕事が休みだったため
再び母を見舞うことになりました。
面会予約がとれた14時15分に
弟と病院で待ち合わせることになりました。

毎日、見舞いにきていた弟から
「オフクロ、昨日から自力で呼吸ができるようになった」
そう聞いた私はパッと顔を輝かせました。

私「よかったじゃない!」

弟「よくはないよ」

そう答えた弟に、私はきょとんとなりました。
どう考えても、自力で呼吸ができるようになったのは、喜ばしいことです。

さらに、自力呼吸ができない場合、
「気管を切開して人工呼吸器を挿入する」と
医師から言われていました。

ノドを切ってチューブを入れるなんて
考えるだけでゾッとします。
私以上に臆病な弟なら
「自力で呼吸ができて、手術しなくてすむかもしれない」という現状を喜ぶかと思ったのですが……。

いぶかしがりつつ、私は口を開きました。
「えっ? 自分で呼吸できるようになったんでしょ? よいことじゃないの」

弟「うん、まぁ、そうなんだけど…。
とりあえず、面会が終わったあとで詳しく話すよ」

母の病室に到着したため、会話はいったん打ち切られました。

さて、面会した母の様子ですが
5月4日の時点では焦点の合っていなかった目に光がもどり、
こちらの呼びかけにも反応します。
また、手をにぎると、しっかりにぎり返してきます。
あきらかに母の容態は改善しています。

嬉しくなった私は、医師に向かって質問をしました。

私「自分で呼吸ができるのだから、人工呼吸器をはずせますか?」

しかし、医師の答えは「NO」。

医師「完全に意識がはっきりしていないとはずせません。
なぜなら、チューブを抜くと唾液やタンが、いっきにノドに落ちてしまいます。
その唾液やタンを吐き出さないとちっ息死してしまいます。
意識がモウロウとしていると、吐き出すことが難しいので……」

私「そうなんですか……」

医師「人工呼吸器を抜くチャレンジはしていますが、現時点では気管切開手術をお勧めします。
同意書にご記入いただけましたか?」

私「すいません。かかりつけ医に相談したいのですが、GWの関係で今日までお休みで。
明日から営業を再開するので、明日には同意書をお渡しできると思います」

医師「診察の内容がわからないのに
相談されても、かかりつけの先生も困ると思いますよ?」

(はい、おっしゃるとおりです。
でも、弟が欲しいのは医学的な根拠に基づく正論ではなく、〝自分のお気持ち”への寄り添いなんです)

そう言いたい気持ちをグッとおさえ
私はただ「すいません」と繰り返します。
医師は無理強いすることはできないので
大きなため息とともに
「わかりました」とおっしゃいました。