「意欲喚起」に始まり「意欲喚起」に終わる

都内のデイサービスは事業所が飽和していて、
特に18人以下と定員の少ない地域密着型は、地域の社会資源として機能していなければ、財務面での体力がないので、淘汰されていく運命と隣り合わせにあると思います。
 
そのような中で、5年ほど携わったデイでは、
通所拒否があって他の事業所へ通うことのできなかった方、他の事業所で受け入れを断られた方などにご利用をいただくことが比較的よくありました。
 
その中のお一人で特に強く印象に残っている方がいるのですが、
今回はその方との関わり(支援)を通して、「意欲喚起」(意欲への支援)ということについて考えてみたいと思います。
 
そのお方は、看板などを手がけていた元職人の男性の方で、脳疾患の後遺症から利き手が不自由となってしまい、達筆であった自慢の筆さばきもできなくなり、すっかり意欲を無くされてしまっていて、日がな一日布団で横になられていることが大半という不活発な生活を送っている状態の方でした。
そのような状況で、他事業所への通所も拒否されていて、ご家族がお困りになられて、ケアマネ経由ではなく、直接デイに相談に来られたのでした。
ご家族からお話をお聞きしたところ、お若い頃から将棋と囲碁がとてもお好きで、時折、体を起こしては、一人将棋をされることがある…とのお話を伺ったので、将棋を糸口に関わっていくことで、ご本人が望んでいるであろう、またご家族が希望されている生活改善へ、少しでも近づけていくことができたら…と、
その日から、ほぼ毎日ご自宅へお伺いさせていただき、
「将棋のお手合わせをお願いしたい」旨のお話をお伝えし続け、
お返事を返していただけないところから始まり…
顔を上げて「また今度…」と話して下さるようになり…
「ここ(自宅)で(将棋を)やりますか」という段階等を経て…
ようやく3週間程経ったときに、一緒にデイまで来て下さることができた…
そのような経過でご利用をいだだくようになった方でした。
ほかのご利用者の方への支援ももちろんありましたので、必ずしも落ち着いて将棋を指せたわけではなかったのですが、何とか気に入っていただくことができたようで、そのあとは毎日のように通って下さるようになりました。
そして、通い慣れていただく中で、ご自宅で困難であった入浴や着替えも行なっていただけるようになり、衛生面での課題も改善されていったのでした。
 
「好きで得意であった将棋を楽しむことができる生活となった」ことによって、こころにハリが蘇ってきたのだと思います。
デイサービスを利用いただくことで、意欲が上向き、心身機能、生活の質(QOL)が向上していったと言える関わりになったと思っています。
 
私自身、生活歴を踏まえた個別支援ストレングス視点といったことの大切さを改めて実感した体験でもありました。
 
ご本人やご家族が望んでいるわけでもないのに、声なき声をくみ取っているんだ!?といわんばかりの支援者の自己満足、価値観の押し付けで、ひとりよがりとも言えるような支援を行うスタンスではなく、
ご家族だけではなく、ご本人も生活の変化(以前の生活に近づけること)を望んでいることが感じられたので、懸命に支援を行った関わりでした。
ご利用者、支援者が、Win Winとも言える関係を築けたのだと思います。
 
ここにあげた関わりは、将棋がカギとなっていましたが、
いわゆる「昔取った杵柄」といったものが、意欲喚起へのカギとなることが多いと思います。
 
「地域の方のお役に立とう」という視点で運営していた事業所でしたが、
(あらゆる)事業は、社会に必要とされてナンボ、
デイサービスは、地域に必要とされて(地域に必要な社会資源となって)ナンボと思います。