2015年9月1日(火)配信毎日新聞社

Dr.北村の女性クリニックへようこそ:子宮頸がんワクチン どうなった

 
Q 子宮頸がんワクチン どうなった 2年前の6月から、子宮頸(けい)がん予防ワクチンの接種が止まったままになっていますよね。うちの娘も、2回までは接種したのですが、3回目はまだです。このままいつまで待ったらいいのでしょうか。(42歳・女性)


 A 増える罹患率 再開めど立たず

 「どうなっているの?」と尋ねたいのは、実は僕の方なのです。

2年前(2013年)の4月に定期接種がスタートしたのもつかの間、同年6月には持続する痛みの副反応症例を訴える人たちも出てきて、積極的な接種勧奨を一時的に差し控えると国が発表しました。

既に2年が経過していますが、いまだに再開のめどが立っていません。

 子宮頸がんは決して特殊な病気ではなく、女性特有のがんとしてはわが国では乳がんに次いで罹患率(りかんりつ)が高く、特に20代から30代でのがんでは第1位となっています。

しかも、10年には1990年に比べてこの世代の女性の罹患率は約2倍に増えています。

日本人女性の約76人に1人が、生涯にかかるリスクがあり、毎日10人が死亡し、30人が子宮頸部の円すい切除術を受けています。

また、米国では子宮がん検診が当たり前で検診受診率が85・0%であるのに日本は37・7%に過ぎません。

子宮頸がん予防ワクチンの定期接種への期待は、特に若い女性を巡る深刻な事態があるからなのです。

 検診をすることで子宮頸がんによる死亡を防げるという方もいます。


しかし、検診とは、がんあるいは前がん状態の早期発見には有効ですが、程度の差こそあれ手術が必要となります。

円すい切除術とは、レーザーや高周波ループなどを使って子宮頸部の一部を切除する方法ですが、その結果、流産や早産のリスクが高まることがあります。


仮にがんが進行すれば子宮を含めて広範囲な手術をせざるを得なくなり、将来の妊娠が困難になるだけでなく、排尿障害、尿失禁、むくみなどに苦しむことにもなりかねません。

 ワクチンの接種は、そもそもがんにならないための予防ですから、検診とワクチン接種との違いは明白です。

副反応に苦しむ女性に対して手厚いサポートの必要があることはいうまでもありませんが、このままワクチン接種が止まっていていいのでしょうか。


 「何かをやって失敗するのと、やらずに失敗するのとでは、どちらの罪が重いのだろうか。

予防接種ワクチンの副反応は大きく取り上げられるが、予防接種をしないことの将来的な損害については、あまり注目されていない」という科学技術社会論研究者の佐倉統(おさむ)さんの言葉が胸に響きます。


10年後、20年後、世界で唯一子宮頸がんに罹患した女性が住む国などと揶揄(やゆ)されないためにも、子宮頸がん予防ワクチンの積極的勧奨が速やかに再開されることを願わずにはおれません。

(日本家族計画協会クリニック所長、北村邦夫)=毎週火曜掲載