子宮頸がんワクチン、医療関係者がシンポ 副作用への不安理解訴え

毎日新聞社 2014年12月18日(木) 配信
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 副作用報告の多発で接種の呼び掛けが中断されている子宮頸(けい)がんワクチンについて10日、日本医師会と日本医学会が医療関係者向けの初のシンポジウムを開いた。このワクチンの安全性や有効性を巡っては、医療界でも意見が分かれる。当日の主な議論を紹介する。

 ●脳機能障害の報告も

 子宮頸がんワクチンの副作用報告は、厚生労働省に約2500件寄せられている。これらをどう見るか。登壇した8人の専門家の意見は一致しなかった

 牛田享宏(たかひろ)・愛知医大教授は、厚労省研究班が18施設で診察した患者204人について、血液検査や脳画像に大きな異常はなく、広範囲の痛みが主な症状だったと指摘。痛みが慢性化すると、体を使わなくなって筋肉や神経、脳などにも変調が及ぶとの見方を示し、「慢性的な痛みは一般の小中高生にもあることで、不安を取り除くだけでも症状は良くなる」と報告した。

 これに対し、池田修一・信州大医学部長は「痛みを取っても、眠りすぎや記憶力低下などの脳機能障害が残る。未知の異常が隠されているのでは」と述べた。横田俊平・国際医療福祉大熱海病院長も「痛みから始まり、次第に光過敏など脳の異常とみられる症状に進展していく。この変化は神経がつながっている脳の別の場所に病変が広がったと解釈できる」と説明した。

 ●因果関係の証明困難

 副作用報告の中には、ワクチン接種が原因かどうか分からない症状も含まれる。複数の登壇者が「因果関係の証明は難しい」と述べた。一方、西岡久寿樹(くすき)・東京医大医学総合研究所長は「症状の個々の原因が不明でも、症状はすべてワクチン接種から始まっている。全体を新たな病気と捉えるべきだ」と主張。一連の症状をHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)関連神経免疫異常症候群(HANS)と名付け、各分野の専門医で早急に治療指針を作ることを提案した。ただし、会場から「HANSの症状が出る割合を、ワクチンを打っていないグループと比較したデータがない」と疑問を指摘する声も上がった。

 患者には「医師がワクチンの副作用と認めてくれない」と不信感を持つケースも少なくない。心身医学が専門の宮本信也・筑波大教授は、治療の心構えとして「発症原因は一時棚上げし、患者の心理的ストレスやワクチンへの複雑な思いを理解して、今できることを一緒に考えるべきではないか」と訴えた。

 ●患者への支援体制を

 事実上中断しているワクチン接種の勧奨をどうすべきか。日本産科婦人科学会理事長の小西郁生・京都大教授は、世界保健機関(WHO)がワクチンの有効性を認める声明を出し、58カ国で公費による接種が実施されている現状から、「子宮頸がん患者が増えているのは日本だけだ。接種が進む米国や豪州、スコットランドなどでは、がんの原因になるウイルス感染者が減ったとのデータがある」と早期の再開を求めた。

 一方、西岡氏は海外でも副作用が問題になっているとして「デンマークでは人口比で日本の約3倍の副作用報告が出ており、症状も日本の患者と同じだ」と慎重な対応を求めた。

 シンポジウムの座長を務めた高久史麿(ふみまろ)・日本医学会会長は終了後の記者会見で「子宮頸がんワクチンには▽(心身の変化が大きい)思春期の女性が対象▽接種時の痛みが強い▽3回注射が基本――など他のワクチンと違う特徴があり、専門家の見解も割れるのだろう。個人的には接種は続けるべきだと考えるが、副作用の出た患者への支援体制を整えることが必要だ」と語った。【清水健二】