HPV ワクチンの副反応、「心身の反応で惹起」と結論

橋本佳子(m3.com編集長) 2014年1月21日(火) 配信


 厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と、薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全調査会は1月20日に合同会議を開き、子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の副反応に関する論点整理を行い、同ワクチン接種後に来した広範な疼痛または運動障害は、「心身の反応により惹起された症状が慢性化したものと考えられる」と結論付けた(資料は、厚労省のホームページに掲載)。

 ただし、定期接種の勧奨を再開するか否かについては議論せず、2月に開催予定の次回会議に見送られた。同会議で、副反応に関する報告書をまとめるとともに、安全性の議論を深め、定期接種の勧奨再開の可否を審議する予定。

 HPVワクチンは2013年4月から予防接種法に基づき、定期接種化されたが、副反応が問題になり、6月から勧奨差し控えとなっている。副反応検討部会部会長の桃井眞理子・国際医療福祉大学副学長は、会議後の会見で、「副反応の頻度や医学的評価、接種との因果関係、これら3点を議論、評価した上で安全性について結論を出す」と説明。

 報告書には、HPVワクチン接種時の注意点として、接種の意義について接種を受ける本人の十分な理解を得るほか、心身の反応による症状を呈している場合には、理学療法や認知行動療法など身体的アプローチと心理的アプローチ双方を用いた集学的な治療で、症状の重症化や長期化を防ぐ重要性も記載する予定。「最も重要なのは、医師と患者の信頼関係。病態について十分に理解してもらい、信頼関係の中で診療することが重要だというのが、共通の理解」(桃井氏)。

 会議後の会見では、「心身の反応により惹起」という結論に、「患者の納得が得られるのか」との質問も出た。桃井氏は、「納得というより、心身の反応により医学的にはあらゆることが起き得ることを、理解してもらうために報告書をまとめる」と答え、医学的な検証に基づく結果であることを強調した。


HPVワクチンの副反応問題への関心は高く、メディアも多数取材に。
 「広範な疼痛または運動障害」、4つの可能性を検討

 「論点整理」ではまず、
(1)HPVワクチン接種後の副反応報告全体の頻度、
(2)副反応のうち、広範な疼痛以外の疾患・症状が発生したとする副反応の報告頻度、

の2点については、「海外と比較して格段高いわけではない」とし、「広範な疼痛」についても、日本よりも頻度は低いものの、海外でも報告があり、「ワクチンの安全性に懸念があるとは捉えられていない」とまとめた。

 HPVワクチン接種後に、広範な疼痛または運動障害を来した患者のうち、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの既知の自己免疫疾患と診断された患者については、海外の大規模疫学調査によってワクチンが誘発した可能性は否定されている。

 焦点となったのは、既知の自己免疫疾患等以外の、診断が付いていない「広範な疼痛または運動障害」を来したメカニズムだ。「HPVワクチンの副反応の症状は多様だが、根幹となる共通の症状は、広範な疼痛と運動障害」(桃井氏)。

「論点整理」では、医学的に考え得る、
(1)神経学的疾患(中枢神経、末梢運動神経または末梢感覚神経)、
(2)中毒、
(3)免疫反応、

(4)心身の反応――という4つの可能性を挙げ、これまでの議論を整理。

 桃井氏は会議後の会見で、
(1)から(3)を否定した理由について、
「神経の器質的疾患などでは、説明できない所見が多々ある。中毒についても、それを示唆するには病態が合致しない。免疫反応に関しても、血液検査で炎症を示唆する所見は見られず、さまざまな反応を想定しても、症状が説明できない」などとし、

(4)の「心身の反応」と結論付けた理由を、「広範な疼痛についての医学的知見、患者が示しているさまざまな症状のパターン、検査所見などを勘案すると、器質的な疾患ではなく、心身の反応であると説明するのが、医学的には適切であるという結論に至った」と説明した。

客観的なエビデンスを基に判断したというより、消去法的な判断とも言えよう。


 「心身の反応」との表現を用いたのは、精神疾患と区別するためであり、「精神的に健康な人間が、何らかの背景が基となり、さまざまな生体反応を来している、つまり、心理社会的因子が密接に発症に関係していることを意味する」(桃井氏)。

 ただし、「接種後1カ月以上」が経過してから発症している患者については、接種との因果関係を積極的に疑う根拠がない上、「心身の反応が3カ月以上」慢性的に経過する場合は接種以外の様々な要因も関与していることがそれぞれ考えられるとした。

 20日の会議で最も多く出たのは、「接種時に注意すべき事項」に関する意見。「なぜHPVワクチンが必要なのかについて、説明を受けずに接種されることがある。接種の意味を説明することが必要」など、接種を受ける本人自身の理解を深める必要性のほか、「生活の質が低下するほどの痛みがあった場合には、2回目以降の接種の延期も検討する」などの対応を求める声も上がった。