大学生の頃だっただろうか。僕はJ. D. サリンジャーと出会った。村上春樹との出会いが村上龍の新刊を探していた時偶然に…だったように、当時僕の記憶ではJ. D サウザーという歌手がいて、J.D. で始まる名前に親和性を抱いていたのかもしれない。
最初は「ナインストーリーズ」という短編だったと思う。短編小説ってサクサク読めるに違いない、と思っていたら、とんでもなかった。なんだか、引っかかり引っかかりしながら、ふぅふう言いながらだったが、なんだか心にしがみついて離れないテイストだった。中でも「テディ」という短編は僕に鮮烈な印象を残した。こんな短編が書ければなぁと思ったりもした。
それから「フラニーとゾーイ」「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」をさらにふぅふぅ言いながら読んで気がついたら、「ライ麦畑でつかまえて」というサリンジャーの代表作であり最大の問題作をすっ飛ばしていた。そして告白しよう。僕はまだこの本を読んでいない。
正しくは読み始めてからまもなくして、この本を伏せてしまったのだ。野崎孝さんの訳で読み始めたのだが、その語り口が(記憶違いでなければ)江戸っ子みたいで(江戸っ子の方ごめんなさい)喉につっかえてしまったのだ。翻訳って大事ですね。
タイトルもまたキャッチーで恋愛映画っぽいのだけれども、タイトルはたぶん…読んでないから何度も言えないはずだけど…内容とはかけ離れているんじゃないかな。ロマンチックな響きはサリンジャーには似合わない気がするんだよね。それにしてもこのタイトルのせいで、つい読んじゃう人がいるんじゃないかな。村上春樹さんはあえて原題をカタカナにして訳した。
本当に寡作なサリンジャーの作品は少なく、新作を待ちながら失望のどん底に沈んでいた。するとどうだろう!!つい最近、Amazonの本の紹介で、聞いたことのないタイトルの本が2冊出てんじゃん。
「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ ハプワース16、1924年」と「彼女の思い出/ 逆さまの森」がそれ。
お金がないから、古本から選んで買いました。前者が6年半前、後者が2年半くらい前に初版。僕は抗議する!!Amazonでどれだけ買い物したと思ってんだ。あれだけオススメをグイグイ押してくるのに、なんでこの2冊をオススメしてくれなかったんだ。え、Amazon!!
「知らねーよ、お前はチーズだか吉野家の牛丼だか空気清浄機だか、買えねぇのに閲覧すら高い靴とか時計とか…サリンジャーなんて言葉調べたか?調べなきゃわかんなぁだろうが、おおん!!」とAmazonさんは激昂してるよね、きっと。
ま、まぁそれは置いとこう。
しばらく僕はこの2冊で幸福になる。職場のだだっ広い休憩室の這い上がらないと座れないイスに座って、朝淹れてきたコーヒーを飲みながら読むサリンジャーは最高だ。40年以上も前に読み始めたサリンジャーとの再会は、こちらが歳をとった分、ふぅふぅ言わなくても読める程度になってきた。
世にも不思議で、どうしようもなく頑固で、悲しいくらい優しい隠遁者の紡ぐ物語にしばし浸ろう。コーヒーは安物だけど、最高に素敵な時間がしばし続く。2冊の短編集を読み終えるまであと少し。