コロンビアの作家であるガブリエル・ガルシア・マルケスの最も有名な著書「百年の孤独」(原題はスペイン語で Cien años de soledad )が新潮文庫で文庫化されるというニュースを最近読んで驚いた。


「まだ文庫化されてなかったのか?」


邦訳されて、日本でもかなりの人が読んでるから、文庫化まで辿り着いているものだと思っていた。ラテンアメリカ文学の中で、もっとマイナーな作品でも文庫で買ったものもあるのに、なんでこんなに時間がかかったのか?


「もう読んだよね?」


僕は大学でスペイン語専攻だったので「読むのが当たり前」だという圧力に囲まれていた。読書家であるかどうかではなく、この学科にいたら読むのが当然だとでもいうような圧力。1972年に鼓直さんが翻訳していたので、ブームからすると6年遅れての入学だったが、その影響はあまりにも大きかった。


読んでみてグイグイ引き込まれていった。今だと間違いなく挫折していると思う。


コロンビアの架空の村マコンドを舞台に、村を開いたホセ・アルカディオ・ブエンディア一族の100年にわたる宿命の物語。


死者と生者の境は曖昧で、ありえないことが当たり前のように起こる。しかし、この世界観に身を委ねると脳が勝手に反応する。注意しないと現実世界の様々が溶けてしまう気さえする。魔術的リアリズムという言葉を生んだ問題作でもある。安部公房さん始め多くの日本人作家が影響されたことを公言している。


「文庫化したら世界が滅びる」と言われていたのは確かだが、どうやら邦訳したはよかったが、なかなか売れずに、契約の関係で海外作品は文庫化が難しく、50年近くかかってしまったということらしい。


Netflixで映像化されるというニュースとマルケスの没後10年の節目で、文庫化に踏み切ったというのが新潮文庫編集部の見解だとのこと。


ラテンアメリカ文学の多くの翻訳をしてきた神戸市外国語大学の学長まで務めた木村栄一先生が、当時は大阪外大に講師として来られていて、マヌエル・プイグの「このページを読む者に永遠の呪いあれ」を翻訳する授業が4年間で一番ワクワクする授業だった。


今考えると、この本の翻訳が決まっていた木村先生が授業を使って訳していたのだろうと思う。


指名された生徒が予習してきた訳を口頭で言うと、面白い訳の時だけ先生はメモを取る。僕は、木村先生がメモを取りたい訳をすることを考えて、日本語を磨いて授業に出ていた。


焼酎の名前になったり、堂々と別な本のサブタイトルになっていたりとタイトルの日本語訳そのものがこの作品の日本での成功に大きく寄与していると言えるだろう。


一度ハマってみませんか?読み終えた時の達成感と少し宙に浮いたような感覚に襲われると思います。完全に合法的なトリップ体験ができます。