小学校に上がる前、駆け落ちしてきた両親は周囲に馴染めず「村八分」の扱いを受けていました。そんな僕たちを迎えてくれたのは、あるご家庭でした。風呂のなかった僕んちは、一家総出でそのお宅にお邪魔し、お風呂をいただき、山羊のミルクをご馳走になりました。


父親と僕の楽しみは、白黒テレビで観られるプロレス。母親と妹が帰った後も2人残って、プロレスに熱狂しました。


プロレスは普通の民放では放映されてなくて「この辺は電波が拾えるんだよ」とおじさんが自慢していた。


日本のレスラーでは、ジャイアント馬場さん、アントニオ猪木さん、大木金太郎さん、山本小鉄さんなどが活躍していた。技といえば、空手チョップ、頭突き、ジャイアントキックとかで、当時はただ蹴っているだけ、叩いているだけ、頭をぶつけているだけでスリーカウントって、よっぽどすごい威力なんだろうな、と思っていました。


テーマはもちろん「勧善懲悪」。日本人が正義の味方で外人レスラーは憎むべき敵だったのです。


外人レスラーでは、フレッド・ブラッシーさんやフリッツ・ファン・エリックさんが有名で、ブラッシーさんの得意技は「噛みつき」(反則です)で、流血がすごくて、白黒テレビじゃなかったら大変なことだったと思います。エリックさんは、アイアン・クロー(鉄の爪)で、その大きな掌で相手の顔を圧迫するのです。たまらずギブアップするレスラーもいて、本当に強いなぁと恐怖していました。


でも、あちこちで耳にするのは「うちの祖父とか父親とかがプロレス大好きで、その影響で自分も格闘技好きなんだよね」という言葉です。


女性は「嫌い」と言う人が少なくなかった印象ですが、昨今の格闘技ブームでは、女子格闘技も盛んだし、ファンの中にも女性の方が増えているように思います。


人間には闘う本能が備わっていて、自分ができない闘いをレスラーの方や相撲取りの方達に託してそれを鑑賞することで「燃える」こともあるのだろうと思います。


オリンピックの祭典は何のためなのかな?と思うことがあります。世界大会は競技ごとに開催されているわけだし、それで十分じゃないかなと。


国の威信をかけるというのは少し違う気がします。育成のためにお金をかけられる国とそうでない国が同じ土俵で闘い、プライドがどうこうというのはナンセンスだと感じてしまいます。競技のレベルアップのために国際大会は維持するとして、オリンピックでの勝敗や獲得メダルの数を順番にすることに今はなくなりつつあるし、招致のために賄賂を貯めたり、そのために裏金をプールしたり、接待をしたりすることがわかっていて、そこにお金(税金)を使うのなら、明朗な会計報告をすべきではないでしょうか?


おっと話が逸れてしまいました。いつものことですが、申し訳ありません。


僕の一家にお風呂とプロレスを提供し続けて下さったご一家とは、その後疎遠になってしまいました。経緯はわからないままです。


父親がある時、僕の前であのおじさん一家を侮辱する発言をしたので、初めて激しく抗議したのを覚えています。「お前も歳を取ったらわかる」と言われましたが、歳をとっても彼の論点がちっとも理解できないままでいられてよかったと思っています。


正直、山羊のミルクは苦手でした。独特な臭みがあり、温めて出されるとそれが鼻をついて、うってなっていました。おじさんは笑いながら「慣れないやろーなー。でも栄養価が高いから、我慢して飲みなさい」と言っておられました。


そのお家に行くと、入り口の前の杭に一頭の山羊が繋がれていました。その哲学者のような面持ちに、特に全て見透かしてますと言わんばかりの細い目と髭には畏怖の念を抱いていました。帰りに「哲学者の山羊」さんの横を通り過ぎながら「ミルクが苦手でごめんなさい」と謝っていました。許してくれたかどうかはわからないけど。