中学生〜高校生の頃、太宰治の小説を好んで読んでいた。僕は「走れメロス」には興味がなく「人間失格」「晩年」「斜陽」「葉桜と魔笛」「道化の華」と挙げればキリがない豊かな作品群を片っ端から楽しんでいた。


作家の来歴を見るのも好きで「太宰はお金持ちのボンボンで、自己顕示欲が強く、甘えん坊で、当事者意識が薄い夢想家で、悪さをしては兄(実家)に助けてもらっていた」と感じていた。第一、自分の妻が間男(不倫)をしている現場を目撃して看過して妻を責めるなんてダメ人間の思考だと思っていた。


猪瀬直樹(以前ヘッポコ東京都知事だった)が「ピカレスク」というタイトルで、徹底的な調査を行い太宰治を取り巻く出来事を実証的にルポルタージュして届けてくれた。なぜ、心中を重ねながら、太宰だけが生き残ったのかは謎だったが、それも初回の成功で味をしめた(兄による隠蔽)、心中に見せかけた連続殺人だったという結論には納得ができた。最後は愛人である山崎富栄が先に毒物を太宰に飲ませての本物の「心中」を成就させたのだという。


僕が許せなかったのは、井伏鱒二さんの「山椒魚」は盗作であり、「黒い雨」は井伏さんに送られてきた記録を自分のものにして出版したという事実である。猪瀬さんはしっかりと取材をし、当事者の家族にも会って、裏どりをしている。


この本は凄まじい筆力と豊富な資料や証言を元に書かれたルポルタージュであり、文芸批評であり、何より僕にとっては推理小説(のような存在)であった。


三島由紀夫を扱った「ペルソナ」も面白いが、どちらかを選べと言われたら「ペルソナ」軍牌が上がるだろう。


読み始めたら引き込まれること間違いなし。ぜひページをめくって欲しい。