6月16日(日)9:00〜25分延長で「アンチヒーロー」第10話で幕を閉じた。第1話〜第9話を復習し、考察動画をざっと見て、プロデューサー、ディレクター、出演者たちのインタビューに出来るだけ目を通して、最終回を待ち侘びた。


ずっと息を止めて、終わった時にフーッと息を吐いた、感覚。それは緊張から解き放たれた安らぎと共に、喪失感。


生ぬるい、リアリティに欠ける設定と、客観的に脚本を内部で批判して修正する気のない、過去作の焼き直しでシャンシャンなくだらないドラマとは一線を画す名作の誕生である。


最初から僕が主張していた成功の秘密である脚本作り。4人の才能を集結させ、脚本を練り上げて、臨んだキャスティングから撮影と編集。メディアへの情報露出コントロールの徹底。


観客は、第1話を見て、予想できないドラマの旅を続ける決意をする。そして作り手の意図の通りにあちこち連れていかれ、気がついたら思わぬ旅先を経験する羽目に陥り、知恵を絞りまくって最後の寄港地を探り、感動の旅の終焉を迎えた。みんな口々に「感動した」「本当によかった」と言いながら「アンチヒーロー号」のタラップを降りた。


「実は法廷シーンだけで34分」と対談でプロデューサーが言うのを聞いて不安を抱いていた。法廷シーンということは台詞の応酬になると予想したのだが、それが退屈になるのではないかという危惧だった。しかし何のことはない、法廷での検察と弁護士(今回は被告と検察)のやりとりは、ボクシングの試合のような言葉の殴り合いは、素晴らしい脚本家たちによって計算され尽くした展開をもたらし、白が黒へ、黒が白へ転じる面白さで脳を刺激してくれた。


「A Few Good Men」という映画でのトム・クルーズとジャック・ニコルスンの攻防戦は映画史に残る名場面だと思っている。アル・パチーノ演じる盲目の紳士のスピーチで感動を与えた「Scent of a woman」を彷彿とさせるヘビー級の攻防は迫力満点だった。「共に地獄に落ちましょう」という明墨の台詞には痺れた。


最初の企画書はコロナ前の2020年であり、そこから長谷川とディレクターは会議を重ねて、この5ヶ月の濃密な撮影、放送を終えた。「脚本は最初にすべて(第一話〜最終話)が出来上がっていたのはやりやすかった」という役者の1人の言葉があったような…用意周到という言葉に尽きるその心意気が生んだTBSの本気度に最敬礼である。「VIVANT」に続くオリジナル作品で、面目躍如である。次回作は「ブラックペアン2」こちらも前作が面白かっただけに楽しみである。