コミック原作の映画化なんだけど、最初からグイグイ引き込まれて最後までギュッと掴まれたままだった。台詞は少なく、途中のアドリブもやりっぱなしで「オイオイ」だったけど笑いが止まらず、この場面のメンタリティは?ストーリーは?テーマは?辻褄は?そのすべての問いが無粋に思える。この映画の目指すものは、そんなものから遠く離れたところにあるのだと思う。石井克人監督は、この作品をスタイリッシュでカッコいい、どれとも似ていない遊びに満ち満ちた一級のクライムサスペンスに仕上げた(もはや、よくわからない)。


今回はキャスティングの素晴らしさについて書こうと思う。自分で演劇の脚本を書く場合、劇団員は限定されているので当て書きをする場合もある。でも敢えて当て書きを避けて、役者の芝居の幅を広げることも意図するのだが、映画の場合は難しい。


原作に対して読者(ファン)が持つイメージを壊さないもしくは超える必要がある。ドンピシャの役者があればいいが(いいかどうかは議論が必要)、そうでなければ役者による演技や作り込みで、「ドンピシャ」を実現する必要がある。


今回の映画では、主役の鮫肌(浅野忠信)が組織の金を持ち逃げし逃亡を始まる。組織は凄腕の殺し屋を送り込み、金を取り戻して鮫肌を始末することを目論む。そこに絡んでくるのが、不幸な境遇から家出を決意したトシコ(小日向しえ=ココリコ田中の元妻)である。2人は共に逃避行を続ける。浅野と忠信は美しくてシャープ。最初は冴えない制服女だったトシコが大人っぽい服に着替えてから、最高にオシャレな「いい女」に変身する。ここに最高にスタイリッシュな逃亡カップルが完成する。


さて、敵はこの2人を凌駕する面々を揃えていた。田抜(岸辺一徳)、沢田(寺島進)、フクダ(鶴見辰吾)それ以外にも今をときめく名バイプレーヤーたち(堀部圭亮、津田寛治、田中要次)が暴れまくっている。しかし最高だったのは、殺し屋の山田正一を演じた我修院達也である。どこかすっとぼけたつながり眉毛(はっきり描いてる)の小男は、公衆トイレで鮫肌を襲うのだが、返り討ちにあう。その時の演技がアドリブで、浅野さんが本気で笑っているのが衝撃だった。リハや使わないテイクならわかるのだが、OKテイクで使われていることに、劇場の客席から滑り落ちた(ま、喩えなんだけど)。


そしてもう一人…漫才ブームで「もみじ饅頭ぅう」とか叫んでいた天才、島田洋七の横に立っていた島田洋八(モジャモジャ)がトシコを縛り付けて虐待する男として登場しているのだが、漫才をしている時の頼りなさは何処へやら憎むべきサイコの芝居を自分のものにしている。これは演出の成功なのかもしれないが、ゾクっとする怖さをスクリーンに刻みつけた。


それにしても、ラストまで突っ走るその疾走感と爽快感がクセになる作品である。本当は劇場だが、無理だから、DVDで確認していただきたい。日本映画でも、日本人の役者たちでも(だからこそ)こんなことができるんだ!と。