東京大学法学部、文学部を卒業して、銀行勤務をしながら歌手をしていたなんて、考えられない経歴ですよね。その全てが場違いというか、常軌を逸している。そして、小椋佳さんが寺山修司さんの舞台を観て感激し、電話帳で番号を見つけて電話し、以降寺山邸に出入りしていたとか、東京キッドブラザースの東由多加と親交があったとWikipediaで知り、愕然とした。Wiki恐るべし。


僕は、僕にフォークソング(吉田拓郎やふきのとうなど)を教えてくれた友人から「小椋佳、聴いてみたら」とか言われて、のめり込んだ。「彷徨」というアルバムに収められた14曲の叙情は凄まじく、僕の日常や毎日を過ごす気分を規定してしまったからたまらない。「しおさいの詩」に始まり、「少しは私に愛をください」「あいつが死んだ」「さらば青春」など、決して明るいとは言えないし、元気になるわけもない歌、特にその歌詞にやられてしまったのだ。


しかし、さらに僕を小椋色に染め抜いたのは「残された憧憬(あこがれ)-落書-」だった。井上陽水との共作(歌詞 小椋佳、曲 井上陽水)「白い一日」や「飛べない蝙蝠」を始め、どの曲も僕を振り回してくれた。


森村誠一の推理小説「腐食の構造」が大好きで、ドラマ化されたその作品に松田優作さんが出ていて、毎週観ていた。エンディングテーマが小椋佳さんの「心のひだ」という名曲。もう何十年も聞いてないのでこの機会に聞いてみよう!!ドラマは島田陽子さん、篠田三郎さんも出ていて、感動的だった。実は僕は完全に勘違いしていて、森村誠一さんの「青春の証明」のドラマに松田優作さんが出ていたんだと思い込んでいて、調べたら全く違っていたので途方に暮れていた。今回、小椋佳さんを調べていたら「心のひだ」という曲に出会ったので、そこからアプローチして「腐食の構造」にたどり着いたという次第だった。何年間も喉に引っかかっていた魚の小骨が取れたくらいのスッキリ感である。


「シクラメンのかほり」という名曲を得て、布施明さんは、なかなか取れなかった日本レコード大賞を受賞したのは大感動だった。三谷幸喜さんの「オケピ」での布施さんの演技と歌は圧巻の一言に尽きるもので、僕はその歌を聞きながら泣いてしまった。


この機会に小椋佳さんの叙情にもう一度どっぷりハマってみるのも悪くないと思う。美空ひばりさんの「愛燦燦」は彼女の不朽の名作になったし、日本の歌謡史に燦然と輝く金字塔になったと言っても過言ではないだろう。