僕は5月3日が誕生日なので、運転免許証の更新は6月3日までに行わないといけないらしい。常識というか社会知に乏しいがために、周りのみんなは「本当に何も知らないんだなぁ。」とため息混じりに僕に言う。決して独り言ではなく、はっきりと。僕が明るく「うん!」とか「はい!」とか言うからなおさら頭に来るのか、呆れるのか、「いいかい、運転免許証の更新はね…」と説明してくれる。今まで何十回と更新してきたんだから、わかるでしょ!と言われても、まったく記憶にない。今も、まさに今この時も列に並んでブログを書いてるんだけど「日曜日は多いから、早く行って並ばないと待たされますよ。」というアドバイスに乗っかって、運転免許センターに来ている。


いつだったか、高速道路を走行していたら、落下物なのか、工事区間だったのかで、一般道に下ろされて、次の高速乗り口まだ急いでいたら「旗を振る警察官の方達」に招かれて、道路脇の空き地に車を停めた。そこには先客が何台かいて、警察の皆さんも忙しそうだった。少し待たされた後で、僕の番になった。


「10キロオーバーですね」

「そうですか。すみません」

「急いでおられたのですか?」

「特には…」

「ご職業は?」

「会社員です」

「どちらにお勤めですか?」

 ため息を我慢して、当時勤めていた学校の名前を告げた。

「先生ですか?」

「答えないといけませんか?義務?」

 僕は少しイライラしていた。

「皆さんにお答えいただいていますので」

 質問の答えになっていない。

「質問に答えてください。義務なんですか?」

「義務ではないですが、皆さん…」

「であれば、答えたくありません」

「そうですか。わかりました」

 僕はこういう時でさえ、コミュニケーションを楽しむタイプなんだけど、相手の態度が気に入らないと少し意固地になる。そして面倒くさい違反者になってしまう。彼の質問はそんなに変ではない。ただ少しシミュレーションしてしまったのだ。


「はい、教師です」

「先生が交通違反はマズイですね」「先生も人間ですものね」「ま、先生だからどうだとかないんですけどね」「先生も最近は大変ですよね、モンペアって言うんですか…」もしくは完全にスルー。そのどれもが不毛で仕方なく思えた。では違う答えなら…


「いえ、教師ではありません」

「ということは事務職の方ですか?」「他にありましたっけ、先生以外で…」もしくは完全にスルー。


相手に答える義務がないのなら訊くな。しゃべらせたいなら、それなりのトーク力を身につけろ。実は心の中でそう呟いていた。


スピード違反→書類を書く→2度としないように→はい、これでいい。僕が密かに誰かを殺して、トランクにでも積んでるのなら、それをしっかりと暴いて欲しい。僕は単に馴染みのない40キロ制限の道路を50キロで走っていた運の悪いネギを背負った鴨にすぎない。ここにいる他の鴨と何ら変わらない。どの池からやってきたか関係ない。もっとスマートに処理して欲しい。


8時にはドアが開くとアナウンスがあった。「私は当直で昨日からここに泊まっていたんですが」という前置きをしていたが「いるか、それ?」と思ってしまった。


でもよくよく考えたら、このブログって、読んでくださる方からしたら「いるか、それ?」しか書かれていないんじゃないかな…ムムム…自問自答しながら僕は免許センターのドアに吸い込まれていく。これから何が起こるんだろう…ドキドキ


(写真は会社の駐車場に落ちてた魚…どうやってこの魚はここへ。村上春樹さんが以前書いていた、空から魚が降る話…ん?そんな話あったっけ…)