アート系シアターの年間会員になっていた僕は、元をとらなきゃとばかりに映画館に足を運んでいた。アート系の映画を鑑賞しては「めざせ、スノビズム」「最先端になるためにぃぃ」と不純でいけてない動機で映画鑑賞を重ねていた。


東欧、ギリシア、インド、中南米…(インド映画も今みたいに派手派手ではない地味なスタイルの映画)のやや重々しかったり、あまり盛り上がりのない淡々とした映画を地味に待っていた。


昼間のアート系映画館の客席はまばらで、定年を迎えたご夫婦、一人で来られているマダム、このためにお休みを取った大学生(勝手に想像)がポツポツと座っておられる。その中に混じってパンフレットやチラシを読んで開演時間を待つのが楽しかった。時には文庫本を持ち込んで読むことも。


昔ながらのブザーの音がして、予告編やCMが流れる。この時間からワクワクが増幅される。期待される暗闇は少し甘めだったりする。その分はキツめに目を閉じて補完。僕にとってはご褒美の暗闇。この暗闇だけが、大学時代のあの時の暗闇と繋がっている。劇場独特の匂い。ホコリとタンスの防虫剤、この場に不釣り合いな香水、椅子に染みついた匂い、コンクリートの匂い、ないまぜになったこの空間はきっと唯一無二でありながら、僕たちの記憶と結びついたある種の均一性(類似性)を担保する。


思いがけない掘り出し物に心の中で小さくガッツポーズすることもあれば、あまりにも難解で自分の能力の低さに絶望するものもあり、「日本映画、捨てたもんじゃないなぁ」と口笛を吹きたくなる名品に出会うこともあった。


シネマ5さんが無くなったら、この町の文化の火は消える。会員になって通うことを考えないといけないとつくづく思う。戦艦ポチョムキンやメキシコ万歳、旅芸人の記録など「観とかなきゃ」と思って観た映画を観て追いかける体力はないけど、映画大好きの魂が撮って切った映画にはまだまだ出会いたいなぁ。