30歳くらいの時に先輩から「演劇サークル」を引き受けて欲しいと声をかけられた。職場の壁に貼っていた僕の手製の新聞に小さく囲みで書いていたシナリオめいたものを見たとかで「君ならできる」と煽てられたからだった。「調子に乗ったな」と周囲に言われたり「騙されたな」と揶揄われたりした。


映画は好きだったけど、演劇は映画に敵わないとずっと思っていたから、そう簡単に引き受けるはずがないのにどうして僕は引き受けちまったのか?その答えは大学時代にあったのです。(正直どうでもいいですよね、こんなの…でもまぁ少し我慢してくださるとありがたいです。)


大学のイスパニア語(スペイン語)会話クラブでは、関西スペイン語連盟の語劇コンクールに毎年参加していた。しかも当時アルバレス教授の意向で古典劇をやりなさいと言われていて、ロペ・デ・ベガやカルデロン・デ・ラ・バルカの古典劇を上演していた。(めっちゃ簡単にご紹介するとスペインのシェイクスピアみたいな存在)部員たちは現代劇をやりたがっていたのだが、仕方なかった。そこで僕は初めて道化役を割り当てられて、ほぼ初舞台を踏んだ。練習中はうまく行かずに悩んだりした。しかし合宿の時になんか頭がクリアになって、かなり思い切ってパントマイム的な動きを取り入れて動き回ったら、見ていたみんなが爆笑していて、それが快感になったことは間違いない。コンクールでは現代劇に敗北をした。もちろんそれだけではなかったと思う。(審査員の一人がExceso de pantomima.と評価したらしいことを聞き、自分の演じた道化の演技が過剰だったのだと知らされた。)うちの大学は次の年に現代劇を上演して優勝したと聞き、複雑な想いをした。


友人が大学の演劇サークルに所属していたので、ノルマだからと頼まれて、チケットを買って観に行ったことがあった。作品は別役実さんの不条理劇だった。別役さんの台詞回しと独自の世界観に驚愕した記憶がある。難しいが面白いという印象だった。


これを因縁と言わずして何というだろうか?僕が演劇に関わるに至った出来事はこのいくつかのファクターに集約できるのだろう。あの時、引き受けなかったら…という強烈な仮説こそ全てだと言えるかもしれないが、おそらく僕は首を縦に振ってる。


人生って本当に不思議だなぁ。