幼い頃から何が好物かと尋ねられたら、迷うことなく唐揚げだと答える。ま、ラーメンも捨てがたいし美味しいチャーハンに出会うと幸福感爆上がりであるのも確かではある。しかし唐揚げの魔力には敵わない。


幼い頃から唐揚げが名物の地域で育ったので、どこの店に行ってもかなりのクオリティで唐揚げが食べられた。学校脇の小さな箱の中で売ってるものも、紙袋にグラム単位で買って入れてもらい、新聞紙で包んでビニール袋に入れてもらって持ち帰っていた。


食卓の真ん中に新聞紙を敷いて、その上で紙袋を破って、唐揚げの匂いと湯気で部屋をいっぱいにして食べていた。味は濃い目でニンニクの風味が強い。唐揚げを揚げる油そのものに味が染み付いていて、その油もしょっちゅう新しくするのではなく、足して足して揚げている。だから、色白な唐揚げをみると「まずいんだろうな」という偏見を抱く。


唐揚げの食文化は家族団欒の象徴であり、ちゃぶ台もしくはコタツの台の上で繰り広げられる熱い争奪戦は、家族の中の序列を無視して行われていた。大きさや部位によって、味や肉質が変わるので、自分の好きな部位をめがけて、箸が飛ぶのだ。この時ばかりは親が自分の権限を振り回すこともなかった。親の世代になると唐揚げそのものへの興味は子どもたちほどではなくなり、むしろ子どもたちの真剣な食べっぷりを吟味しているのだろう。


母親にしても、唐揚げを買ってくれば、味噌汁を炊いておくか、なんなら唐揚げvsご飯のみの純粋な消費行動に任せておけばいいと思って、母親の家事の一端を端折るイベントにもなっていた。


もちろん、唐揚げを家庭の味にしているところもあった。そのせいか、唐揚げといえばかくあるべきが家庭の数だけ存在するのだろう。僕は自分でつけだれを作り、それに数時間から半日漬けておいてから揚げるようにしているから、味が濃い。ショウガよりもニンニクに重きを置いている。スパゲッティ同様に譲れないレシピがある。


ビジネス街の定食の唐揚げはニンニクを使い難いために苦労も多いだろうな。でもそれだと唐揚げとは呼べなくないだろうか。ほらほら、もう出ましたよ偏屈が。困ったこだわり爺ですね。