アート系のミニシアターの会員になっていた頃。大阪での大学時代の映画の味わい方を思い出して、映画館に足繁く通っていた。その時に出会ったのが、西川美和監督の劇場映画第二作「ゆれる」だった。


テレビドラマにおいて、原作もの(特に漫画からの)が幅を利かせていることに残念さを感じていたが、西川美和監督は、脚本を書いて映画にしていく職人である。


この作品は、郷里を捨て、家業であるガソリンスタンドを長男稔(香川照之)に任せて、自分は東京で写真家をしている弟の猛(オダギリジョー)が、母親の一周忌で実家に帰る。稔の店で働く猛の幼なじみの智恵子(真木よう子)に心を寄せる稔。しかし智恵子は猛のことが忘れられない。ある時、3人で渓谷を訪れ、智恵子は吊り橋から転落してしまう。稔は智恵子を故意に突き落とした犯人として逮捕される。兄がやったことを信じられない猛。稔は智恵子を突き落としたのか、それとも誤って転落しそうになった智恵子を助けようとしてできなかったのか。弟の猛は兄を救おうとする。濃密な兄弟愛とそれでいて、幾つになっても競い合い、激しく嫉妬し、憎んでしまう。これは論理ではなく生理でぶつかり合う壮大な兄弟喧嘩の記録なんだと思った。


西川美和監督は妥協しない。描きたいものはきっと人間の汚い部分や憎めないダメさだったりする。ディア・ドクター、夢売るふたり、それぞれスクリーンから目を離せない名作だった。「ゆれる」は人間の内面の揺れを吊り橋の揺れと重ねて描かれている。時としてドキッとする場面をさらりと描く。夢売るふたりの中の、松たか子の演じるある場面で僕は「なんてこった!!」と思った。男の監督は絶対に描かないし、女性監督だからこその飛び越え方だと感心した。それにしても、松さんはよく引き受けたよなぁ。本当に男前です!!