ボーン・アイデンティティを映画館で観た時に、そのアクションのリアリティにやられた。ストーリーもよくできていて、記憶を失っているから、自分のスペックもわからずに「反応」として、自分の自由を奪ったり、攻撃してくる相手を封殺してしまう。この仕掛けはとても刺激的だ。そして、次第に自分の力を解放して、追っ手から逃れ、自分が何者かを探り出そうとする。もちろん自分や協力者である女性の安全を確保するために、敵と思われる追跡者を倒そうとする。ラストは爽快で、このシリーズの中では珍しく恋愛の成就をエンディングに選んだ。他のエンディングも用意されていたように聞いているが、このハッピーエンドはありだと思った。


ボーン・スプレマシーは、アイデンティティの続編である。ボーンとマリエは人を避け幸せに暮らしていた。マリエはボーンのトラウマと罪に向き合わせることでしか救われないと考え、ボーンを抱きしめる。しかしそんな時間は長くは続かなかった。2人を襲う不幸と報復に出るボーン。全体としては、CIA内での裏切りなどもあり、暗いトーンで進む。ボーンが生き残るということは、同じ境遇の暗殺者たちを殺していくほかない宿命だった。このラストを見ると、ボーンが求めているのは贖罪であり、許されない罪に向き合おうとするボーンの強い意志を感じる。それこそがマリエがボーンに求めていたことだから。


ボーン・アルティメイタムはトリロジーのラストを飾る作品だ。アクション映画として最も優れているし、ここで紹介されるアクションは接近戦のお手本であり、普段他の用途で使っているありふれたもので相手を制圧する(滅ぼす)ところに惚れ惚れするのだ。ここでは、CIAの連絡係だったニッキーを人質にしながら、自分がデビッド・ウェッブという普通の軍人から、暗殺を任務として冷血に果たしていくマシンになった経緯とそれに関わっていた人たちを暴いていく。


僕はこの後のジェイソン・ボーンという映画は蛇足の蛇足だと思っている。トリロジーで止めておくべきだだった。何度見てもその厳しいアクションとカースタントにはやられてしまう。この三部作こそが今世紀最高のアクション映画だと確信している。CGを使わず、本物を使ってここまでの迫力ある映像と人間の凄さを見せつけてくれた本作を超える映画はなかなか出ないだろう。他の役者をボーンにしようとして、最終的にマット・デイモンになったようだが、ボーンの役はマットしかいないと思わせてくれる。これ以上の続編制作はやめてくださいね。