松田優作さんのファンで、最近でも彼が生きていたら、その圧倒的な存在感でどれほど僕らの度肝を抜いていただろうかと考える。


僕は、「太陽にほえろ」を毎週楽しみに観ていた。マカロニ刑事(ショーケンこと萩原健一)が殉職した時には、密かに暴れていた。それから松田優作さん演じるジーパン刑事が登場した時には、その飲み込みにくいキャラに、愛想を尽かしてやろうと思っていたら、いつのまにか引き込まれて、毎週金曜日を楽しみにしていた。そしたら今度は「ジーパン死す」的な展開になり「なんじゃぁそりゃぁ」と涙に溺れたものだった。


1978年に「最も危険な遊戯」翌年には「蘇える金狼」を劇場で楽しむことができた。長身でしまった体躯でのアクションは、唯一無二の中毒性のある魅力を振りまいていた。2000年に事件は起こる。


大藪春彦原作だということで理屈抜きのガチアクションを期待して劇場に出かけた「野獣死すべし」(村川透監督)で、僕は宙吊りにされた。「え?僕はあれほど憧れた松田優作の映画を観たのか?」


飲み込みづらい。追いつかない。優作さんがかっこよくない。むしろ、戦場での取材でトラウマを抱え、生き方まで変えられた弱い存在でありながら、暴力(銃)で暴走していくインテリなソシオパスを見せられている感じだった。しかし、僕は2回目劇場に足を運び、自分を診断し始めた。「確実に、優作病に冒されている。」


この新しいアクション映画は、傑作だった。優作さんが監督や製作側に提案して、体重を落とし、奥歯を抜いたりしながら作り上げた伊達邦彦というキャラクターは唯一無二なのだ。


最初の場面で雨の中、刑事を追い詰め拳銃を奪い、カジノを襲う場面を見てもらえればわかる。伊達邦彦は決して腕っぷしが強いわけでもなく、ただとんでもなくしつこく金を奪うという目的だけを追い求めて、蛇かトカゲのように動き、相手を諦めさせ目的を達成している。むしろ「みっともない」犯罪者であり、この演技術(演出)は、超人めいたアクションに対するこの上ないアンチテーゼになっているように思う。このオープニングの岡野等さんのトランペットの音色は言葉では表せない愉悦を生む。そしてなぜか映画の中身と実は高い親和性を持っている。「人間的な、あまりにも人間的な」超人がここにある。優作さんが現出させた伊達邦彦は、その他の作品の中の伊達邦彦とは一線を画す、最高傑作である。


優作さんについては、まだまだ語り足りない。後のブログに譲る。