「めっちゃ自分好みな感じだ!!」
足を踏み入れたとたん、いろんな物語が目に飛びついてくる。
家具から空間までが、イキイキとしている。
一旦落ち着いて、右に視点を合わせれば、綺麗に飾り付けられたアンティークの数々や、ピアノが並べてあり、クラシックな雰囲気が醸し出されている。
そして、反対方向には、さまざまな絵が飾られており、コクーンような感覚と、少しお洒落なアトリエのような感じがある。
まるで世界中を旅してきた、御仁の記憶を覗いているいようだった。
夢心地という言葉が体に染み渡る。
そして、裏では外国語が優しく空間を包み込んでおり、
さりげなくラジオの役割を果たしている。
店主さんもとても人付き合いの良い方で、親しみやすい感性の持ち主だった。
よく環境は人を変えるというが、逆も然りなのだろう。
よくこの空間と馴染むお方だ。
ベレー帽をかぶっているところを見ると、美術の他にも、ヨーロッパの地方の色合いが好きなのだろうか。
エプロンもボーダーが入っており、優しい雰囲気とよく馴染んでいる。
だが、驚くのはまだ早い。
「三省堂の本をお持ちのようですが、どこから来られたのですか?」
彼女が優しく話しかけてくれる。
僕が言葉に詰まっていると、こちらの状況を察してか再び話しくれる。
「えーと、実はここらへんでは三省堂がないんですよ。田舎ですから笑」
さりげない会話で一気に場を和ませてしまうのは、果たして努力でどうにかなるものなのだろうか。
僕はというと、後から、あの人は人を見る目が洗練されているのだな、と気がついた。
ごくたまに、秀でた才能を持つ人はいるが、自由に使えるのはそのまた一部なのだろう。
そんなこんなで、いざ席についてみれば、歓喜の声が骨の髄から溢れ出す。
山の上に位置するこのお店は、そこから見渡せる眺めが売りの一つのようだ。
建物や造形物よりも、空の面積が大半を占めており、
果てしなく広がるその景色は、人生の尊さと、その小ささを同時に示しているような気がした。
部屋から一歩踏み出して、近場のお店に入ってみるだけで世界は一気に変わるかもしれない。