ご隠居さんのしわがれた声が
2人きりの銭湯の中で響きます

「ユノや、寂しいか?」

ユノは、「はい」とも「いいえ」とも言えず
黙ったままです

「いつも元気いっぱいで強く生きている者でも
家に帰れば、孤独で弱くなる日もある
わしも、これまでにそんな日はいくらでもあったよ」

いつも穏やかでニコニコしているご隠居さんにも
寂しい日があったんだ

ユノはご隠居さんの顔を真っ直ぐに見ました

「心が弱っている時は、いつも下を向いているから、周りが見えないんだ
自分の心の声が大きくて、周りの人の話も聴こえてこない」

ユノは
下を向いていると聞いて、自分のことのように思いました

「そんな時は、何にもしなくて良い
ジタバタせずに、頭の中の考えを手放すんだ
そして、顔を上げて周りを見てごらん
自分がどんなに愛されているか気がつくから」

ユノは、ハッとしました

クラスメイトの優しさも
町の人の優しさも
上級生の優しさも
ナム先生の優しさも

思い出すと、涙が浮かんできます

「カンタはユノのことを
それはそれは大切に思っている
ユノがカンタのことを同じように
大切に思っていることを、カンタは知っている
だから、知らない奴が何を言ったって
カンタはひとつも気にしないぞ
ユノさえ信じてくれていれば
他の人が何を言おうとどうってことない」

ご隠居さんの言葉が
ひとつひとつ、ユノの心に染み渡ります

「上を向いて歩きなさい
怖がることはない
この年寄りもユノの味方じゃよ」

熱いお風呂に浸かって
ほんのり赤くなっている
ご隠居の穏やかな顔をみて

ご隠居さんがこの話を自分に聞かせるために
お風呂に誘ってくれたことに気がつきました

「ありがとうございます」

ユノは、心からのお礼を言いました


明日は国語の授業に出る

先生にことわらなくても教室にいる


ユノが、決心している頃

学校では、クラスメイトたちが
何やらまた話し合っているようでした

「明日は公開授業だって、お父さんから聞いたんだ
チャンスだよ」
チャンミンがみんなに言いました

「うちのお父さんも観にくる
お父さんには、この話を伝えてあるから、きっと味方になってくれるよ」
シウォンが力強く言いました

「ううう!やる気が湧いてきたぞ!
早く明日にならないかな」
ドンヘが奮い立ちました

「ねえ、もう一回、予行演習しとこうよ」
ウニョクが念を入れます

「順番が大事だから、間違えないようにしないとね」
シンドンが注意します

「うん!
僕だって、やる時はやるんだから」
キュヒョンが本気を出します


みんなの心は一つになっているようです

保健室で見たユノの顔

倒れてしまうまで、心を傷めていた

早く、いつものユノに戻って欲しい

明日こそ

ユノには、教室にいてもらう

身体を張ってでも、教室に留めておこう

みんなの覚悟を見てもらうんだ

みんなの瞳は
キラキラと輝いているのでした



続きます


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