森林と編集(18)都市に自然林を造ろう[後編・最終回] | 森田稲子のブログ

森林と編集(18)都市に自然林を造ろう[後編・最終回]

「大都会に造られた森―明治神宮の森に学ぶー」を発刊した17年前のことである。
私はあるパーティに出席していた。
ちょうどワインに手を伸ばした時である。私のほうに真っ直ぐ近づいてくる女性の姿が目に入った。

何回かお目にかかってはいるが、親しく言葉を交わしてはいない。「どなただったかな~」近くなってある大手新聞の記者だと思い出した。

お礼を言いたくて・・
「森田さんでしょう?この本を発行したの」
彼女はなんと「大都会に造られた森」を差し出したのである。

「ええそうですが。でもなぜ?」というと、「今日はお礼を言いに来たんです」私はいささか、あわてていた。この記者にちゃんと贈呈してあっただろうかと、一瞬思った。

「こんなに良い本を作って下さってどうも有り難う。」
私は、一瞬聞き間違いをしたのかと思った。しかし、彼女は私の顔を真っ直ぐに見て、次のようなことを話し出した。
「私、最近まで、環境担当だったんです。ですから地球環境問題について随分勉強したり、取材したりしました。ところが知れば知るほど、考えれば考えるほど、絶望的な気持ちになるばかりで。
最近、人間はもう救われないのではないのかとさえ、思うようになったのです。」

たかだか70年
そして、彼女は私の差し出したビールをおいしそうに飲むと、話を続けた。
「ところが、数日前にこの本を本屋さんで見つけて、むさぼるように読んだり見たりしているうち、みるみるうちに私の心が晴れていったんです。なぜって、たかだか70年で、あんな素晴らしい森が出来たのでしょ。人間は捨てたものではない。特に日本人は素晴らしい力を持っていると思って。」


私は、彼女が「たかだか70年」と言ったのを、すっかり気に入ってしまった。「ほんとうですねえ。いまや80年も90年も生きるのだから、70年なんてたしかにたかだかですねえ。ところで、自然林についてはどう思います?」今度は、私の方から質問した。

なぜ、自然林を造らないのか
「私はこの自然林を造るという技術、あまりにも凄くて、嬉しくなっちゃいました。自然を良く知るという事は、たいしたことなんですねえ。でも森田さん、なぜ、明治神宮の森以降自然林を公園や都市に造らないのですかね。」

「私もそう思うんですよ。臨海部のお台場あたりの開発でも、剪定した庭園木みたいなマツをちょこちょこと植えてお茶を濁しそうな感じがするけれど、ほんとうはちゃんとした自然林を造って、内陸部を守るべきだと思うんですよ。むかしから、防風林とか、防潮林とかの造林技術もあったはずですからね。建物や道路にばかりお金をかけて、環境にお金をかけることを怠っているのではないですか。」

これは17年前の会話であるが、今と状況はちっとも変わってないと思う。私はたびたびこの時のことを思い出す。

そして、どなたか環境に理解がある首長さんと市民とが手を結んで、地域のクライマックスの森の姿、永遠の森を再現する運動をぜひ展開して欲しいと願うのである。(おわり)




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