12月7日 木曜日 

 午後、歌舞伎座に行く。お目当ては『俵星玄蕃』。好きな赤穂浪士ものだ。

 

 

 

 

 しかし、結論から言うと、今回は高いチケットは買わず三階席にしておいてよかったなと思った。『俵星玄蕃』は、講談・浪曲から歌舞伎に仕立てた”新作”だ。素人が失礼なことを言うようだが、脚本がこなれていない気がした。家に帰ってYoutubeで見た結果、三波春夫のおよそ9分の長編歌謡浪曲『元禄名槍譜 俵星玄蕃』にかなわないという結論になった(笑)。その代わりと言ってはおかしいけれど、『俵星玄蕃』の前に演じられた舞踊劇『爪王』を面白く観た。奥羽の雪山を舞台に老鷹匠が飼う若鷹「吹雪」と狐との死闘を描いたもので、鷹を七之助が、狐を勘九郎がつとめた。中村屋所縁の舞踊劇とあって二人の所作と舞台のスペクタル感を存分に楽しめた。動物文学の作家・戸川幸夫の脚本を平岩弓枝が脚色した作品だというからさすがである。動物好きではなく、したがって動物文学というものにも興味がなかったが、何年か前に岩波文庫でジャック・ロンドンの『荒野の呼び声』を読んで感動してから少し目覚めた。ネットを見ると『爪王』(つめおう)と名前のつめけずりが売られていておかしかったが、うまく名を借りたなと妙に納得してしまった。

 終演後、銀座の伊東屋でクリスマスカードなどを見て時間をつぶした後、サントリーホールに向かう。サントリーホールでの今年最後のN響定期公演だ。ファビオ・ルイージ指揮、アリス・沙良・オットのピアノで、ハイドン、リスト、レーガーを聴く。こちらはどれも名演で言うことなし。もし、感動を”量”で示せるとすれば、歌舞伎座で足りなかった感動をサントリーホールで補って余りが出た。とまあ、そんな師走の一日だった。