大型連休の一日。友人のH君に誘われて奥多摩に出かけた。朝、立川駅で待ち合わせて青梅線に乗って驚いた。電車は、トレッキングや川遊びに行く人で通勤ラッシュ並みの混雑である。

 わたしは、と言えば、奥多摩には飲みに行くのだと、最初からそういう理解でいる。なのでビルケンシュトックのサンダルを履いてきた。しかし、電車の乗客は、皆しっかりした脚ごしらえをしている。わたしだけ、ちょっと場違い。いいんだ、いいんだ、飲むだけなのだから。心の中で自分に言い訳をする。

 

  

 澤乃井園清流ガーデンは、とても良い所だ。すっかり気に入った。H君に感謝。オッサン同士で飲んで、果たして間を持たすことは出来るだろうか。そんな心配はまったく杞憂に終わり、朝10時前に飲み始めたのが、気がつくと、もう午後3時を過ぎている。陶然となって、途中で居眠りでもしていたのだろうか。

 

 問題は帰路にあった。もちろん、H君と一緒に立川経由で南武線に乗って帰るつもりでいた。ところが、何を間違ったのは、立川の3つ手前の駅でフラフラと降りてしまい、H君には見捨てられてしまった。次の電車で立川に着いたが、まっすぐ帰るのもつまらないと思い、中央線廻りで寄り道することにして、立川から1駅目の国立で降りた。昔、大学に通った駅である。

 南口を出ると、人々が集まって歌っている。デモか抗議集会か。ところが、歌っているのが忌野清志郎の《雨あがりの夜空に》なのだ。なんでキヨシローなのだろうと思って近寄ってみると、「忌野忌2023 このまちとキヨシロー展」というファン交流イベントだった。忌野清志郎の命日は5月2日。RCサクセッション《多摩蘭坂》(たまらん坂)のある国立はキヨシローファンの聖地なんだって。知らなった。ゴメン。

 大学通りから入った小路。「ロージナ茶房」の内部はすっかり変わっていた。それは当たり前だろう。大学を卒業してから初めて来たのだ。隣の席の男女が大学院の試験の話をしている。そんなところは昔も今も変わらない。ぼくは、昔もいまもそういう話は苦手。それも変わらない(笑)。腹が減ってきた。ボンゴレビアンコと白ワインを注文する。学生へのサービスなのか量がやたらと多い。

「ロージナ茶房」の向かいの建物を地下に降りると、昔「檸檬」という名前の店があった。かなり昔になくなったそうで、階段にわずかに名残りがあった。

 働いていた美大生らしい女の子がとても美人でイカしていた。目当てに通っていたが、ある時、吉祥寺でやはり美大生らしい野郎とただならぬ関係であるところを見かけてしまった。

 入口の小さなビルの3階に古レコード屋があるのを見つけ、ジャズのCDを買う。

 国立から吉祥寺に向かうことにする。

 吉祥寺にはよく来た。駅ビルのショッピング街は「ロンロン」とかいう、いささか間の抜けた感じの名前だったけれど、いまは違うようだ。

 これからの季節にも被れるような棉混のキャップを見つけ、どちらにするか迷う。結局、2つとも買う。

 最近、酔って転ぶことがよくある。先月、都心の公園で花見した時も、公衆トイレからの戻りに転んでしまった。帽子は、そんな時に頭を怪我から守るための必需品だ。酔っている自覚はあるようだ。だから買ってしまった。

 吉祥寺駅で思い出すのは、井の頭線の改札口の天井のところに首を伸ばしていたキリンの像だ。携帯なんかはもちろん、下宿には普通の電話もなかった。「吉祥寺のキリンの下でね」。次に会う約束をするのによく使った。ドキドキしながら行った場所だ。そのキリンも、いまはない。

 

 以上が、H君と別れた後の、わたしの中央線徘徊報告である。帰宅して、NHKプラスで歌人・俵万智さんを取り上げた「プロフェッショナル」を視た。「平凡な日常は、油断ならない」それがタイトルだった。わたしは油断だらけ。朝からのことを思い返して、冷や汗が出た。

 失くしたもの:リコーGRのカメラケースの上蓋。澤乃井園清流ガーデンで買ったお 土産(燻製とうふ、葉わさび佃煮)。

 得たもの:ジャズのCD5枚。綿混の帽子2つ。  以上

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