このリングの作者はジョルジュ.ブラック
(1882-1963)です。彼はセザンヌの影響
を受け、ピカソと共に革新的な芸術運動
キュビズムを起こした画家です。
キュビズムは、対象を一つの視点から見る
それまでの遠近法に代わって、多くの視点
からとらえようという試みです。ピカソの
絵画のように見えますが、作風が似通って
いるのはごく自然なことです。このリング
のモチーフになっている顔は、ギリシャ神
話に登場する美しい魔女キルケーの横顔で
す。ブラックは、キルケーが彫刻されたカ
メオをみて、インスピレーションを得たと
いわれています。中略…20世紀のジュエリー
は、このようにアーティストの感性をリング
として表現したものが多く、貴族や一部の
富裕層がゴールドスミス(金工)に自分の
好みでつくらせていた時代のものからは、
大きく変貌を遂げています。
(指輪88 淡交社より引用)
と1961年に作られたこのブラックのリング
は、1963年のルーブル美術館で開催された
展覧会で展示されたコレクションです。
一番最初に手に取ってみた時には、
誰の作品なのか知りませんでしたので、
何となくゆがんだ横顔が、ピカソの絵に
似ている…と感じたぐらいで、その後、
原稿を担当する段階でジョルジュ.ブラック
とその周辺事情を調べていく内に
キュビズムへの興味が増しました。

ピカソは、ルネッサンス以降ずっと続いて
いた一点透視画法とは違う、あらゆる角度
からの視点で対象物をとらえようとしたも
ので、作者の思い出など感覚に影響を及ぼ
すものも画像に表したと言われています。
一つの対象物を見るときに、デジカメで
撮影した画像のようにとらえることも
できますが、絵画を描く人の対象物へ対する
感情も表現しようとしたのか…
例えば、私のリングの写真ですが、
デジカメで撮ったらルビーの原石のリング
です…ただそれだけですが、私自身が見たら
ミャンマーのNam-ya鉱山へこのリングと一緒
に出かけた思い出も、難しかった仕事も一緒
にやってきた…思い出がよみがえり、
リングの後ろに景色が広がってきます。
そういう感情を表したのがキュビズムだった
のでしょうか?
興味は尽きません。
