俺はここで何をしているんだろう。



何度そうつぶやいただろうか。

両のヒザは限界を超えていて、走っても痛い。歩いても痛い。

太ももから下は力が入らないので、足を前に出すことができない。


前に進むためには、

1、体を前に倒す。

2、倒れないように足が勝手に前に出る。

3、さらに体を前に倒す→足が前に出る。


という感じでもはや走っているランナーというより、



今にも倒れそうな人。



そんな状態で浅草を折り返し、残り15キロ。

「もうここまで頑張ったんだ。リタイヤしてもいいんじゃないか」

と悪魔の誘惑。やめたら、楽になれる。


そんな時、頭の中に「ズン、ズン」とリズムが鳴りはじめた。

さらに聞いたことのない声で、聞いたことのない歌が聞こえてきた。



「リタイヤするのは簡単だ♪リタイヤするのは簡単だ♪」



なんだ~この歌はぁ!

頭の中から離れないじゃないかぁ!


待てよ。確かに、リタイヤするのは簡単だ。

ここまで来たんだ。ゴールまでたった15キロじゃないか!



それからの私は、その歌を(小さい声で)口ずさみながら走った。

そう!リタイヤするのは簡単だ。

抽選漏れやケガで走れなかった人もいる。

ここまで来たんだ。一歩づつ前に進めば必ずゴールはやってくる。



残り10キロ、銀座四丁目に戻ってきたころ

あれだけ降っていた雨はいつの間にかやんで、

ビルの隙間から太陽がのぞいていた。



そこから先のことはあまり覚えていない。

覚えているのは体中の痛みと、あのメロディ。



フィニッシュ地点、東京ビックサイトが見えてからは

不思議と体に力が涌いてきた。

あとは必死さだけが足を動かしていたんだと思う。




初めて走ったフルマラソン。

どんなにゴールが遠くても、歩みさえ止めなければ

そしてあきらめなければ、必ず、ゴールにたどり着く。


5時間59分の長旅は辛いことばかりだったのに

なぜ、また走りたいと思ったのか。


それを確かめるために、僕はまたこの街を走る。



東京マラソン2008まで、あと242日だ。