絵:カシス長老


「女の子になりたい」カミングアウトし気が楽に/神戸新聞 を基に作成した作品です。ヒカルさんの幸福を願って。

 

 僕はモンスターであることを隠して普通の人間の振りをして生きている。モンスターとバレてしまえば普通の人間として生きられない。今、普通の人間として扱ってくれている周りの人だって、モンスターだと知れば、二度と普通の人間として扱ってくれない。だから、僕はモンスターであることを必死に隠して生きている。

 僕は普通の人間になりたい。生まれて何の違和感も持たずに大人になって、好きな人と交際して結婚して子供を育てて、孫やひ孫に囲まれながら死にたい。でも、僕にはそれは叶わない。なぜなら僕はモンスターだからだ。   

僕は幼いころからほかの普通の人間と明らかに何かが違った。普通の人間に許されていることがなぜか僕には許されない。モンスターは普通の人間のように振舞ったらいけないんだって、ずっと言われて育ってきた。僕が普通の人間らしい振る舞いをすれば、お前はモンスターだと叱られる。モンスターなのに普通の人間らしくするなんて気持ち悪いと笑われて馬鹿にされる。そのうち、段々と普通の人間の友達は僕から離れていった。僕はモンスターらしい振る舞いなんてしたくないし、そもそもできないんだ。僕は普通の人間なんだから普通の人間の友達が欲しかった。あー普通の人間になりたい。でも、幼い僕にはどうしようもなかった。この先、大人になったらどうなるんだろう。不安でいっぱいだった。

 大人になるにつれて、僕の身体がモンスターらしくなっていく。普通の人間と比べると別の生き物のように変わっていっているのが明らかだった。僕は絶望でいっぱいだった。成長を止めたいけどどうすることもできない。段々とモンスターらしくなってくる僕の成長を喜ぶ両親、その成長を死ぬほど拒否したい僕、傍らから見ていればとても奇妙な絵だ。僕はモンスターとして生きるしかないのか。普通のモンスターとして生きようと思えば普通に生きられるじゃないか。でも、そうはいかないんだよね。僕はあくまでも人間なんだ。人間として普通の生き方がしたいんだ。心の中ではずっと思っていること。でも、口になんてできなかった。

 ある日、僕は「人間の素」を手に入れた。これを飲めば多少は人間らしくなるんだとか。僕は心の底から安心した。これを飲めば、普通の人間らしくなれるんだ。毎日、「人間の素」を飲み続けていると人間らしい身体つきになってきた。体毛が薄くなり、見た目でもわかるくらいに身体つきが変化してきた。だけど、両親には「人間の素」を飲んでいることはバレてはいけない。バレたらどんなことを言われるかわからない。もしかしたら没収されるかもしれない。僕は厚手の身体のラインの出にくい服を着て、長袖長ズボンを身に着けて両親の目をごまかし続けた。

 しかし、事件は起きた。祖父に「人間の素」が見つかってしまった。僕はどうすることもできずに泣いた。すると、モンスターが涙を見せるとは何事だと怒鳴られ、結局両親にまでチクられた。

 当然の流れで両親にカミングアウトすることになった僕。「普通の人間に生まれたかった。ごめんなさい。」と泣きながら両親に話した。両親とも無言だった。カミングアウトすれば普通の人間として生きる道を許される人はいる。でも、僕の場合は、否定はされなかったに過ぎなかった。

カミングアウトしたのに両親からは僕はやっぱりモンスターとして扱われる。僕は一生懸命に身なりを整えて、初めて僕を見た人はまずモンスターだなんて思わないレベルまで外見を整えた。でも、家に帰れば相変わらずモンスターとして扱われる。段々と僕は家が嫌いになっていった。家族と外出すれば、普通の人間にしか見えない僕がモンスター扱いされているわけで、「え、こいつ本当はモンスターかよ」と、驚異の目で見られる。それで傷つくのは僕だけ。家族は何も痛くない。いくら僕が頑張って普通の人間として生きられる道を整えても、家族のモンスター扱いですべてが崩される。確かに、僕は生まれてから今までモンスターとして育てられた。突然、人間として扱えと言われても戸惑う気持ちはわかる。でも、僕はそのモンスター扱いが心から苦しいんだ。だから、必死に人間として生きられる道を自分で作ったんだ。家族が変わってくれないと僕のこれからの人生は全て壊れるんだ。わかってくれなくてもいい、理解できなくていい、頼むから普通の人間として扱ってくれ、頼むからモンスターとして扱わないでくれ。でもさ、心に痛い思いをしない家族にはなかなか伝わらないんだよね。

学校はもっと悲惨なんだよね。学校では、普通の人間用の制服とモンスター用の制服がある。社会の中でモンスターと登録されている僕は普通の人間用の制服を着る選択権はない。そして、モンスター用の制服を着たモンスターとして扱われてしまう。それを避けるためには学校にカミングアウトするしかない。このカミングアウトって僕の意思なんだろうか。学校によっては「違和感」を持っていると医師に診断されないと認めないなんて言うところもある。目の前で苦しんでいる生徒は、こうやって学校という特殊な社会に突き落とされていく。

家と学校は同じベクトルで考えてはいけない。その前提で、学校が提供する教育に、普通の人間用とモンスター用があっていいのか。必要以上に分けられた、普通の人間とモンスターの壁。確かに、普通の人間用のトイレにモンスターがいたら不快に思うだろう。普通の人間とモンスターが一緒のところで更衣はできないかもしれない。だけど、普通の人間とモンスターの狭間で苦しんでいる存在は確かにあるんだ。確かにある声に耳を傾けてほしい。本当はカミングアウトなんてしたくないんだ。カミングアウトで生まれるものは異質なものと見られる偏見なんだ。初めから普通の人間とモンスターの狭間で苦しんでいる人間がいることを前提にして学校をつくればいいじゃないか。それは僕だけを守るものではない、すべての者が守られる学校につながるんだ。

学校という社会では少なくともクラスのメンバーにはかなりの個人情報を握られている。いくら僕は普通の人間なんだと主張しても、本当はモンスターであることはみんなにバレている。その上で、普通の人間扱いしてもらえている。これが本当にきついんだよ。僕は普通の人間の振りをしたモンスターから決して抜け出せることはない。学校ってそういうところ。これは卒業してからもずっとそう。「あいつはモンスターから普通の人間になったらしいよ。」と尾びれのついた噂話がずっとつきまとう。

あくまでも僕の中では、生まれてこの方普通の人間として大きくなった。僕の認識において人生の中でモンスターであったことはない。でも、社会の扱いは違った。社会は僕をモンスターとして扱った。生まれた姿を見て僕がモンスターであることを誰も疑わなかった。そこですべてが狂った。僕はモンスターとして育てられた。心の中には常に違和感があった。でも、口にしたらいけないような気がして、誰にも言わずに一人で抱え続けてきた。小学校・中学校・高校と大きくなるにつれて、普通の人間とモンスターの区別が大きくなる。身体つきも変わってくる。認めたくない、どんどんモンスターであることが事実化されていく、その絶望の中を必死に生き抜いた。

社会人になったらほら、普通の人間なのかモンスターなのか、見た目でしか問われない。普通の人間の見た目であれば普通の人間の扱いをされ、モンスターの見た目であればモンスターの扱いをされるにすぎない。人を見た目だけで判断するなとは言うけど、現実として見た目である程度の区別は受けるのは致し方ない。だからこそ、僕は普通の人間に近づくために多額のお金を使った。

僕はモンスターであることを隠して普通の人間の振りをして生きている。これは社会の中での事実なんだ。でも、僕はこれは絶対に認めていない。僕は普通の人間だ。身体と社会の歪みに振り回されながら、普通の人間を取り戻したに過ぎないんだ。

僕は普通の人間として生きる者も、モンスターとして生きる者も、その枠にすら捉われずに生きる者も応援する。なぜなら、僕も背中を押してもらったから。そして、これからも背中を押してもらいたいから。僕は僕の道を歩む。普通の人間としての道を。