世界には平和が訪れた。桃太郎が鬼退治に成功した。正義が勝利を収めたのだ。「悪」を懲らしめて憎き鬼の首を落とした。幼い男の子が、死んだ鬼の首を抱えながら何もできずに泣いていた。
(鬼助)
僕の名前は鬼助。僕は昔、あの有名な鬼ヶ島に住んでいたの。鬼ヶ島でパパは「ショウグンサマ」と呼ばれていた。鬼ヶ島では、島の外には同じ鬼とは思えないような鬼が住んでいると学校で教わった。先生が言っていたの。島外の鬼はとても怖いんだって。我々島内の鬼に出会っただけで襲い掛かるのはもちろん、鬼ヶ島には獰猛な鬼がいて時たま島外に出て島内の鬼を襲うという噂を流しているらしい。だから、島外の鬼に出会ったときは必ず身を守られるようにしてるんだ。
僕らは常に金棒を持って歩くようにしていたの。そしたら島外の鬼どもは立派な金棒を持つようになった。それで僕らは考えた。このままでは突然奴らに襲われたときに殺されてしまう。しょうがないから僕らはさらに立派な金棒を持つことにした。気が付くと奴らは立派な金棒を二本持っていた。このままでは我々は危ない。そして奴らはさらに金棒を増やしてくるだろう。僕らは五本金棒を持つことになった。殺されてしまえばお終いなんだ。自分の身を守るためには強い武器は絶対に必要だったんだ。
鬼ヶ島はとても平和だった。確かに選挙はなかったしパパの言うことは絶対という環境ではあった。でも、みんな学校に通えていたし、生活が維持できる程度には仕事もあった。自由はなかったけど不自由もなかった。だから、鬼ヶ島の鬼たちから不満は出なかった。
(桃太郎)
俺は桃太郎。鬼ヶ島のショウグンサマを倒したのはこの俺。鬼ヶ島という自由のない独裁国家から、自由で民主的な鬼ヶ島に造り替えたのがこの俺だよ。鬼ヶ島の鬼どもは世界の脅威を煽っていた。将軍の命令でどんどん武器を増やしていく。俺ら人間の生活を脅かすのは間違いない。自衛のためとの建前のもとでどんどん武器を増やしていくんだ。これは人間にとっての脅威だ。人間はいつでも鬼どもに反撃できるんだということを示す抑止力で平和を守るんだ。我々はそう計画していた。しかし、侵略をもくろむ鬼どもは武器を増やすのをやめない。我々人間は戦争に反対だ。だけど、鬼どもが戦争を吹っかけてくるのならいつでも戦う用意はある。そして、このまま武器を増やし続けるのであればいつかは攻撃を始めることになるだろう。
鬼ヶ島の鬼が五本目の金棒を持つようになったとき、桃太郎らは鬼ヶ島を攻撃することを決めた。桃太郎は高い士気を持った仲間を作り鬼ヶ島へ船で移動している最中だった。突然、鬼助と桃太郎の頭上を彗星が流れた。
(鬼助)
あれえ!何で僕は船に乗ってるのぉ!!待って待って、何で犬と猿と雉がいるのよ。ってか、パパが殺されるとか聞いてないんだけど。は?え?は?意味が分からん。や、みんなめっちゃ怖いんだけど。パパを殺すのは正義って頭大丈夫かよ。でも、今これ口にしたら船から落とされて僕が殺されちゃうよな。
僕は何も言えないまま船に乗っていることしかできなかった。
(桃太郎)
気が付いた俺の横にはあの憎き鬼どものショウグンサマがいた。一緒に向かっていた仲間が一人もいない。もしかして、みんな鬼に殺されてしまったのだろうか。許さない。僕はショウグンサマを金棒で殴り殺した。そして、テイクアウト用に首を切り落とした。これで平和が訪れるんだ。正義が勝利した瞬間だった。これで人間に安心が訪れる。
するとなぜか、ショウグンサマの息子がショウグンサマを殺したと城の中では大混乱が起きていた。その時俺は全く状況を呑み込めなかった。俺は桃太郎だ。ショウグンサマの息子ではない。しかし、そんなこと口にできるような空気ではなかった。
二人の頭上を彗星が流れた時から何かがおかしい。しかし、それに気づくものは誰もいなかった。鬼ヶ島ではショウグンサマは絶対的な存在である。そのショウグンサマが息子に殺された。ショウグンサマを殺した息子が権威を継承するなんて鬼ヶ島としての平和が乱れ、島の社会が崩壊してしまう。これは絶対に公にできない。ちょうどそこに桃太郎の船が着いた。
(鬼助)(桃太郎)
僕たち 入れ替わってるぅ!
秘密の話がある。ショウグンサマの妻は桃太郎の見た目をした鬼助と、犬・猿・雉を奥へ通した。そして、桃太郎の奇襲によりショウグンサマの首が落とされ、桃太郎は宝を奪ってそのまま逃げていったという鬼ヶ島用の「桃太郎」と、島外用の一般的とされる「桃太郎」という二つのストーリーが作られた。桃太郎は島外で英雄になった。鬼助は予定通りショウグンサマを継承した。
新しいショウグンサマになった鬼ヶ島は「自由」が尊重されることになった。まずは経済が自由化された。島外からも企業を迎え入れ、自由な競争のもとで経済を活発化させた。企業はたくさんお金を儲けた。しかし、鬼ヶ島の中を見ると物価は上昇し、貧富の差が生まれ今までの鬼ヶ島の平和は失われた。生活の困窮を訴えてもそれは自由の代償であり自己責任だと切り捨てられた。当然ながら鬼ヶ島の鬼たちの反発が大きくなってきた。焦ったショウグンサマの鬼助は反発する鬼は拷問の末に死刑にすることを決めた。だが、鬼たちはそれすらも恐れずに闘ってくる。鬼助は鬼ヶ島軍に、反発する鬼たちの闘いを弾圧するように指示した。鬼ヶ島軍は鬼ヶ島の一般市民である鬼たちに銃口を向けた。大きな暴動は街ごと火の海にした。たちまち鬼ヶ島は何もなくなった。鬼助は更地になったところには高層ビルを建てるように指示した。指示に従い街は高層ビル群へと移り変わった。ビルを建設すると雇用が生まれる。街でテロが起これば、テロが起きないように監視するセキュリティー会社に雇用が生まれる。経済の自由化によって、人を雇ってお金を集める資本家階級、雇われて必死に働く労働者階級が生まれた。資本家は労働者が生み出した利潤を最大限に搾取し、最小限の給料を渡す。その結果、雇う側と雇われる側に大きな溝ができていく。そして、雇われる側の鬼たちの反発から暴動が起こる、テロが起こる。するとまた更地から新しい仕事が生まれて、利益を貪る資本家がいるのである。
鬼退治に成功して、鬼の首とたくさんのお宝を抱えて帰った桃太郎は、それを資金にして建設会社とセキュリティー会社、そして傭兵会社を設立していた。桃太郎は何もしなくても、闘いが激化すればそれだけお金が増える。遠い世界で誰かが血を流していても、誰かが死んでも、誰かが誰かに殺されても関係ない。むしろいっそのこと戦争を起こしてもらいたいくらいの気持ちである。その姿はまるで鬼のようだ。お金は桃太郎の懐にどんどん入る。桃太郎は毎日幸せに暮らしている。お金は有り余っている。そして、また新しく仕事を作ればさらにお金が貯まる。社会構造を変えられない限り一生安泰だ。だからこそ、社会構造を変えるような動きには全力で妨害する。その妨害のためなら戦争を始めることも辞さない。
鬼助は気が付いてしまった。桃太郎をどうにかしないとこのままでは鬼ヶ島は崩壊してしまう。鬼助が貧しい人を救済して、鬼助が仕事を創り出す。元の平和な鬼ヶ島を取り戻そう。自由には責任が伴うんだと切り捨てられていた部分を救い上げよう。鬼助は鬼ヶ島のトップとして公約を発表しようと試みた。
そして、世界には平和が訪れた。



