小松さんの作品



 今日は、朝いちばんで、銀座三越で開催されている小松美羽展に行ってきました。小松美羽さんは、私がいま世界で一番すごいと思っているアーティストで、もともと銅版画家としてデビューしたのですが、いまでは陶芸や油彩画など、さまざまな作品を精力的に生み出しています。

 百貨店の個展なので、作品が売りに出されていたのですが、ペイントの作品はすべて売約済みになっていました。だいたい100万円前後なのですが、それでもこの人気です。

 私が一番気に入っていた陶器製の狛犬(小松さんは守護獣と呼んでいます)は、なんと税別1000万円でした。これが100万円だったら。衝動買いしていたかもしれません。

 小松さんとは、30分ほどお話しできたのですが、天真爛漫で、親しみやすくて、すばらしい人間性を兼ね備えた芸術家でした。

 私は、美術をきちんと勉強したことがないので、完全な素人ですが、小松さんの作品をみたときの衝撃は、初めてピカソをみたとき以上でした。しかも、それが、どんどん進化を続けているのです。小松さんの最新作は、もうとんでもないことになっていました。写真で見るよりも本物の衝撃はすごいです。

 私は、音楽は素人ですが、上手なピアニストの演奏は分かります。楽器は素人ですが、ストラディバリの音色の素晴らしさは、分かります。それと同じで、小松さんの作品の衝撃度は、とてもよく分かるのです。

 昨年、信濃毎日新聞に書いた原稿を再掲します。

アートによる街づくりを

 小松美羽というアーティストをご存じだろうか。「美しすぎる銅板画家」として、数年前から注目を集め、テレビや雑誌などで、盛んに採り上げられるようになった。彼女が坂城町出身という縁もあって、本紙にも何度か登場している。ただ、彼女に注目すべき点は、美しいということではない。彼女の作品が大きな力を秘めているという点だ。

 私が、小松美羽さんの作品を初めて見たのは、09年に阿久悠さんのトリビュートアルバムが発売されたときだった。そのアルバムのジャケットと挿絵を担当したのが小松さんだった。正直言って、私は美術に造詣が深いわけでもないし、センスもない。だから、小松さんの絵を初めてみたとき、よく理解することができなかった。ただ、何か気になる。心が釘づけになってしまうのだ。

 かつて岡本太郎氏は、こう言った。「見た瞬間に『何だ!これは』と思うのだけれど、その前を離れると、気になって仕方がないものが芸術だ。だから美しいだけのものは芸術にはなり得ない」。小松美羽さんの作品は、その意味で、素晴らしい芸術作品なのだ。

 その判断は、世界も同じだったようだ。今年、小松さんは、世界の舞台で大きな金字塔を次々に打ち立てた。まず、彼女が製作した彩色を施した有田焼の狛犬二点が、ロンドンの大英博物館に所蔵展示されたのだ。大英博物館のキュレーター(所蔵品の管理者)の目に彼女の作品がとまったことがきっかけだった。大英博物館は、世界最大・最高レベルのミュージアムであり、そこに展示されるということは、彼女の作品がすでに「世界レベル」であることを物語っている。

そして、もう一つ今年の彼女が達成した快挙は、クリスティーズの美術品オークションに彼女の絵画が出品され、300万円以上の価格で落札されたということだ。このことで、世界一流のアーティストへの道が、くっきりと見えてきたのだ。

ところが、いまのところ彼女の作品を系統的に収集しようという動きが、行政には、みられない。いまなら彼女の作品は、数百万円で購入できるから、丹念に集めて行けば、将来的に美術館を作ることが十分に可能だ。坂城町単独では財政的に厳しいかもしれないが、県が支援すれば、十分可能だろう。

 美術館・博物館の経済効果は大きい。パリのルーヴル美術館は900万人、大英博物館は700万人もの年間入場者数がある。世界中から人が集まってくるからだ。もちろん、そのレベルのコレクションをいまから作るのは不可能だろう。ただ、一つの分野に特化すれば、世界一の美術館を作ることは可能だ。

 モデルとなるのは、イタリアだと思う。イタリアは、いろいろな地方都市ごとに、素晴らしい美術館が揃っている。

一番有名なのは、ミラノのトリエンナーレ・デザイン美術館だが、例えば、フィレンツェのウフィツィ美術館には、サンドロ・ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』などの作品が収蔵されており、世界中からコアなファンを集め続けている。このやり方なら、長野でも十分可能だ。イメージとしては、飯山市にある高橋まゆみ人形館だ。高橋まゆみさんの作った人形は、日常の風景のなかに、人物の息遣いや気持ちまでが伝わってくる作品で、見る人の心に深く浸みわたってくる。長野県にゆかりがある作家にこだわる必要はないと思う。そして、自治体による運営にこだわる必要もないと思う。ただ、深く心に突き刺さるアート作品のミュージアムを充実させていき、それをネットワーク化して、日本中に、そして世界中にアピールしていけば、大きな力になることは間違いないだろう。本物のアートを集めたミュージアムには、大きな特長が2つある。一つは、安定した集客が見込めること、もう一つは、季節に左右されないことだ。県内には、すでに素晴らしい美術館がたくさん存在している。とりあえず、それらをネットワーク化・ルート化することから、始めてみたらどうだろうか。北陸新幹線の金沢までの延伸で、金沢の21世紀美術館は、大変なにぎわいをみせている。指をくわえてみている状況ではないのだ。

 

小松さんと