父からの電話はクリニックに居た時だった為、自宅に帰り再び父のもとに電話をかけたクリスティーナが父から聞いた話は

一度帰国するように、と言うものだった。

1年ほど前に彼女の従姉妹の嫁ぎ先、つまり宮からクリスティーナに結婚相手を紹介された事を具体的に進めたいという話が来たのだという。

この事は皇太子妃殿下の身近に彼女の従姉妹がそばにいれば気難しい皇太子妃に使える女官たちの助けになるとの皇太子妃付きの尚宮の発案だった。

 

結婚相手は宮の職員で皇太子殿下の信頼も厚い内官で、クリスティーナの両親も大乗り気であった。

「どうして私が彼女のそばにいないといけないの?しかも夫になる人は宮の内官だから彼女の身近に使えることができるんでしょうが、私がどうやって彼女の役に立つというのよ?」

 

「こっちで歯科医をすればいいんだってさ、妃宮様の定期健診だって君が担当になるそうだし」

「呆れたわ、そんな話無理よ!今の患者さんのほうが大事なの、あのクリニックには私がいなきゃ立ち行かないのよ」

 

それに、ディヴィッド・・・結婚なんてしなくたって彼のそばにいたい、出来れば結婚だってしたいと今も思うけど、それよりなにより彼の近くに居たいわ。

 

「そう言わないで、チェギョンは自分の親とも疎遠だし、お前がいれば何かと気が休まるから…チェギョンには…」

 

「チェギョン、チェギョンってまったく。あっちもこっちもみんなチェギョンなのねっ?私の人生はチェギョンの為にあるんじゃないわ!パパ、チェギョンにううん、チェギョンのお付きの人に言って?チェギョンはもののどおりが理解出来たら素直になれる子なの、もっとも小学生の時のあの子しか知らないけど、今も変わっていないはずよ、そばにいるならその位理解しなさいってね、このお話はお断りしてね、生憎ですけど帰国なんてしませんからね!」

 

 

勢いよく電話を切ると、ベッドにダイブした。

うつ伏せになったままで考える。

 

二人のチェギョンねえ・・・

妖精みたいなチェギョン、ご主人の愛にくるまれて幸せたっぷりな彼女。

それに心ならずも皇太子妃になってしまって反抗期真っ盛りのチェギョン・・・でもきっと何かの雑誌で見た彼女はご主人の皇太子殿下にすごく愛されているはず、殿下のあのとろけそうな彼女を見る目、どっちのチェギョンも幸せなんじゃない?

 

ディヴィッド、今どうしている?私あなたの事が好きなのよ。このままにしないで?私のそばにずっといて欲しい

 

いつになく、グルグルと自分のこれからの事について考える。

・・・待っていたって王子様なんて来るはずないわ、二人のチェギョンじゃあるまいし、

こうなったらこっちから行動するしかないのよね。

プロポーズはもう待たない、自分からすればいいのよ、男性の方がプロポーズするなんて誰がいつ決めたの?

 

次の日、クリスティーナはディヴィッドに思い切って切り出そうと院長室のドアをノックした。

 

「昨夜はお疲れ様でした、会議は上手くいったの?」

「まあね、いつもの事だ、何も変化なんて無かったよ、おいで?」

 

いつものように軽く唇が触れるキスをする、ああ、どうしてこの感触は安心できるのだろう?プロポーズなんてされなくてもこのままでも充分じゃない?ディヴィッドのキスにはそんな魔力さえある。

それじゃダメだって昨夜考えておきながら今さら何を弱気になっているのか?

クリスティーナは彼の腕の中で思い直し思い切って切り出した。

 

「「それは良かったわ、ところで今夜時間が・・・」」

二人が同時に同じ言葉を言った事で顔を見合わせて笑い合う。

 

「ふふ、なんだか気が合うわね、面白いわ」

「ああ、面白いな。で続き、今夜どこかに食事にでも行かないか?久しぶりに外で」

 

「丁度良かったわ、私もそうしたいと思っていたの」

「それじゃあ、どこかを予約しておくよ、店は任せてくれるかな?」

「ええ、お願いね、楽しみだわ」

 

今夜の為に柔らかなシフォンのワンピースを着て来ていた、柔らかなピンク系の花柄、いつもの自分が少しだけ柔らかな印象に見えますように、と願いを込めていた。

 

「キム先生な~に?今日はいつもより気合が感じられますけど、何かあったんですかぁ?」

 

ジュデイが、笑顔を向けてくる。

・・・フフ、あったんじゃないわ、これからあるのよ、と心の中で呟いてみる。

「気合?もちろん、あるに決まってるじゃない。さあ、次の患者さんお呼びしてね」

 

「了解です!」

 

今日の診療が無事終了した。

 

ディヴィッドが支度を済ませクリスティーナが自室に顔を出すのを待っていた。

「お待たせしました、って。何?ステキじゃない珍しいスーツだなんて」

 

「そう?たまにはいいだろう?それに花もあるんだよ、好きだろう?アンティークローズ」

 

ディヴィッドは花束をクリスティーナに差し出した。

「うん、きれい。でもどうしたの?なんだか緊張しちゃうな」

「それは僕もだよ、さあ、行こうか?」

ディヴィッドの差し出す腕に自分の腕に絡めてドキドキしながらついて行く。

 

これから自分のしようとしている事をシュミレーションしながら。

“どうか上手くいきますように、ダメもとだけど・・・ううん、そんなんじゃダメ!絶対に成功しますように!”