■BOOK「中庭の出来事」/恩田 陸


本書は4センチくらいの分厚い本なのだが、先が気になって

さくさくっと読んでしまった。


いわゆる「劇中劇」を巧妙に活用していて、現実に起きていることなのか

それとも劇中の世界なのかが困惑するような構造になっている。


だが、気づけば、「本を読んでいる」ということは、

ある種の非現実な「劇」を文章を介して「観て」いることになり

つまりは、「私は本当の私を生きているのか」を問うのが

この本の主旨と言っていいのではないかと思う。


その証拠が、この本の結末である。

念のため伏せることにするが、最後まで読むと

この本の内容が、文頭から述べられる事件の真相をあばくことを

主目的としていないことが判る。


サスペンスならではのグロテスクな表現を交えて

読者をひきつけ続ける術はうまい。


また、桐野夏生さんばりに、「女のこわさ」がこの話に欠かせない要素になっており

女性特有の「心の底がわかりにくい」様を、話の根底に常にアピールしながら進展していく。


そして、ロンドのように場面が転々と転換していく中で

決めの場面は忘れられない程に脳裏に焼きつく。

そのメリハリがあるために、この長文は成り立っている。


ところで、そもそも女優業というのは、自分を失う職業なのだろうか。

私は逆で、自分を確立するのが易しい職業なのではないかと思う。


本書では、女優が(本心かわからないが)「今誰を生きているのかわからない」というような

ことを話すことがある。

だが、実際には、多くの立場を自分一人で演じることによって、

つまりは多くの「他人」の人生を仮体験することによって

それが本当の自分の経験に結びつき、それが自分の「核」を探すのに

大いに役立っているはずだと思う。

多くの俳優の顔つきがそれを物語っている。


そう考えると、本書は、人生の「負」の部分を表だって語っているという面で

サスペンスである。

もう少し若い時にこれを読んでいたら、もっと新鮮に解釈して

何か新たな発見をしたかもしれない、そう思う本だった。