今回はアルコール依存症の自助グループについての話をしたいと思います。

 

・自助グループって、結局お酒以外の依存先じゃないのか?

・自助グループって言っても、結局は自分自身が頑張らなきゃいけない。行っても行かなくても同じだろう。

・自助グループに行ったら、余計に自分がみっともなく思えてしまうんじゃないか?

 

などの誤解を多少でも持っている人は、絶対にこの記事を最後まで読んでください。

そんな誤解を持っている人が身近にいる人も、ぜひ読んで見てください。

 

理解の一助になれば、と考えています。

 

これまでの記事の通り、アルコール依存症には特効薬も有効な外科手術もありません。断酒を継続していき、生活を送り続けることが治療です。

失うものは、あまりにも多く、命、心身の健康、家族、友人、仕事、社会的信頼、など挙げればキリがありません。

治療とは、一体どういうことか?

 

それは、「人生の主導権」を取り戻す作業と言い換えることができます。

 

それは、アルコール依存症に限らずで、糖尿病や高血圧症など生活習慣病もその点は全く同じと言えます。

思考パターン、生活習慣を健全に変化させていかないことには、どんな薬を用いたところで病気は治りません。

むしろ、下手な抵抗を続けることにより「ちょっとくらいいいだろう」という慢心を生み、命を縮める結果となることもあります。

自分の意思は一番重要です。続けて行くためには、環境が大事となってきます。

 

自助グループでは、どんなことをするかというと、断酒を継続するという意思の元集まった参加者で近況を話し合ったり、テーマを決めて話し合ったり、自己分析や過去の振り返りや、今後の目標を話したり、概ね自由テーマが多いと聞きます。

自助グループには、アルコホリック・アノニマス(AA)や、断酒会、家族会、女性だけの集まりのアメシストなどがあり、定期的にミーティングを開催しています。

 

今年は、新型コロナウイルスの影響により3月ごろから5月まで集まりが中止となっていました。6月に入り人数制限や換気や消毒などの対策を取りながら再開してきています。

3月から中止となりましたが、「断酒を継続する」という意思は強く、ZOOMなどを用いたオンラインミーティングができてきました。

全国から参加でき、中には海外から参加される方もいるとのことです。

 

すごくないですか?こんなご時世になるまでは、ミーティングがオンラインで行うことになるとは思ってもみなかったなぁという思いと、断酒を続けるという意思の強さを感じました。

 

こんな時期だからこそ、と遠くの北海道や沖縄などで開催されるミーティングに参加し、楽しんでいる人がいます。

先日その人に軽くインタビューしましたが、知り合いが遠くにいた、ということや元々あちこち出かけていたということもあり、遠くのミーティングに参加することにさほど抵抗はなかったようです。そして、新しいところに行くのは楽しいということや、普段使わないオンラインということも新鮮でいい、とのことでした。

 

今のこの状況も、断酒の継続の意思の元に楽しむという状況に好転させて過ごされているその方は、まさに回復への道を進んでいるのだな、と実感しています。

 

AAには、AA12ステップ、断酒会には断酒の誓いといった回復への手順があります。メンバーさんは、色々と教えてくれますが実践するのは自分です。

 

私が感じている自助グループの機能として重要なものを述べさせていただきます。

 

①大前提として、すでに過去のことは許されている場(誰も責めない)

 医療に繋がるまでに、少なくとも当事者の方々は自分自身だけではなく家族や職場、友人など周りに多くの迷惑をかけてきていることが多く、「今すぐ消え去りたい」という感覚や「どこにも居場所がない」と感じている人が多いようです。

そんな中、自助グループでは基本的に「批判することはしない」を方針としているので、反省を強要することもしません。参加者が話したいタイミングで話し、周りの参加者はそれを見守るだけです。

自助グループに参加して間もない人は、「こんな過去があって嫌われたらどうしよう」とか「当時こんなことを考えていた。引かれてまた居場所を失うのではないか?」と不安な方が多いですが、安心して話してください。

話し終わったら暖かい目があるだけです。

 

なぜなら先輩方の方が、もっと悲惨な過去を持っているからです。

というのが、鉄板の誘い文句のようです。

 

先輩方は失敗談を、教訓として受け入れ、前を向いています。

過去に縛られていたり、自己非難や卑下は自分を前に進ませないだけでなく、心身に悪影響があるということは周知であると思います。

「今すぐ消え去りたい」と考えていた人にとって、先輩方の存在や自助グループのあり方は「こんな自分でも受け入れてくれるんだ」という感覚をつかませることができ、そうした環境のもとでやっと過去の振り返りや受け入れる準備ができるようになります。

 

 

②内面の振り返りと表出の機会

・過去の許せていない体験はどんな体験でしたか?

・その許せていない体験でどんな感情や感覚を生み出しましたか?

・その許せていない体験で生まれた感覚や感情は、これからのあなたにとってどう成長させてくれますか?

・その許せていない体験で生まれた感覚や感情は、世の中をどう成長させてくれますか?

 

是非上記質問での振り返りをしていない人はやってください。頭の中だけで結構です。

振り返りと表出の機会ではありますが、振り返って、じゃあ次はこうします、と反省の言葉を述べるだけではまだ少し足りません。過去の体験を教訓へと昇華させるのと同時に、そんな自分も必要な自分だったんだと許す必要があります。

この許す作業は、非常に重要です。

許す作業をしない限り、いつも許せていない自分が付きまとい、それがストレスとなっていつでも逃げたい欲求に苛まれることになり、それが再飲酒へと突き動かしてしまいます。

こんな自分でもいいんだ。過去の自分も必要だったんだ。たまたまやり方を間違えただけだ、と思えることが大事です。

 

そして、人は常に成長し続ける存在です。今この瞬間も、成長しています。成長するのは、そこに成長する意思を向けるからです。

ですので、この記事を見て成長する方もいれば、変わりのない方もいると思いますが、それはたまたま今じゃないだけで、いつかこの記事が役に立ってくれるのではないか、と思っています。

成長とは、未来と今を繋ぐ変化です。

許す作業(自分に必要な感覚を得るためでそれは達成されたと言い換え、何度も話すこと)で過去を受け入れ、

どんな未来に行きたいか、そのためにどう成長していくか、それは今決めることができます。

一度決めたことは、後で変えることもできますが、決めていない時と決めた時とではエネルギーが全く違います。

当然、決めたことの方がエネルギッシュに働いてくれます。

 

③回復を目指す仲間と目標の共有

 人には波があります。身体的にしんどい時もあれば、精神的にしんどい時もあります。

自助グループは、「断酒を継続する」集団です。参加するだけでお酒を飲みたいという欲求を抑える効果は非常に高いです。

強制力ではなく、自らの意志でその場に参加するというところに非常に大きな力があります。

自分の「人生の主導権を取り戻す」回復過程において、自分の意志で参加することで得られる自己決定感は非常に重要な感覚となります。

たとえ失敗した経験があっても、めげずにまた立ち上がることができる感覚、それが自己決定感です。

自分で決めることは非常に大事です。

強制力だけでは、人は疲弊して挫折してしまいます。

だから、自助グループへの参加が断酒の継続に重要なのです。

 

④患者と回復者の2択ではなく、回復はグラデーションであるということ。自分は回復の過程に乗っているという感覚を得る

 一昔前は、節酒という言葉がありアルコール依存症の治療においての方針の一つとしてありましたが、長い研究により結局節酒では暴飲を止められないということがわかりました。

飲酒をやめられない人で今身体的に命の危機にある人にとって、節酒は一時的ではありますが身体的には効果があります。

断酒という言葉よりも、節酒という言葉の方が、まだ断酒の覚悟ができていない人にとっては聞こえが良く医療に繋がってくれます。

命の危機に陥ると、そこで気を取り直してあれだけ好きだったお酒をやめるという人は非常に多いです。そうやって生活を改めた方を何人も知っています。比較的高齢の方には多い印象です。

しかし、それでもやめられない人もおり、そういう人にはやはり自助グループが必要と考えます。

自助グループに参加すると、色んな人がいることに気付きます。

 

再飲酒で入退院を繰り返す人、声が小さく今にも消えそうな人、いつも自分を責めている人、無気力だが自助グループにだけは何とか参加している人、この人生をひたすら悲観している人、再飲酒の恐怖を必要以上に煽る人、いつも新しい物を求める人、何かにいつも怒っている人、ルールを厳格に守る人、夢ができたという人、新しく仕事を始めた人、ヘルパーとして今度は支援する側に回った人、啓発活動に励む人

 

など、同じ場に色んな人がいることに気付きます。皆、現在進行形で断酒を継続している人で回復への道を歩んでいます。

回復の過程を辿っているということを、参加することで実感できます。

そして、自分だけではなく徐々に仲間のことも応援するようになり、また新たな気付きを得られ、さらに回復の道を進むことができます。そうした道がずっと繋がっているのが自助グループです。

 

⑤自分自身の人生の主導権を取り戻すコミットの場

 少なくとも断酒会や自助グループに参加している人は断酒継続をコミットしています。さらに、新たな目標も話す人もおり、それに便乗して「実は私も、、、」なんて話し出す時があります。このように、前向きな場は、他の人にも影響を与えます。同じグループに所属して話をしていると、自然とそういう空気が移るのでしょう。

それが、集団の特性です。

そして、そうやって前に進む人もいれば、留まる人もいる。それでいいのです。

進むペースはその人のペースでいいのです。

 

・自分自身がこれからどうやって生きていくか?

・残りの命を何のために燃やして生きるか?

・いや、自分の人生は自分にどう生きろと言っているのか?

 

これまでこんなことを話す機会がなかったと思います。ですが、大の大人がこういうことを語ったっていいのです。

いやいや大人だからこそ、語るべきなのです。

素直に、誠実に、勇気を持って、話してみたらいいのです。

そうやって話す人を、皆応援しています。

 

 

 

 

以前、こんな発言をされている医師がいたようです。

「結局断酒会に依存しているだけ」

依存先が変わっただけで、根本的に自分が変わらなければ意味はない、とのことです。その言葉を聞いて自助グループへの参加を辞めた方がいました。

 

はい、補足させてください。

それでは、根性論の域を出ていません。その言葉だけでは自分を責めてしまいさらに医療から遠ざかる人や、自分や相手が自分を責める・あるいは責めてしまうかもしれないと思うストレスから逃げるための飲酒という口実を作ってしまいます。

相手にやめて欲しいと思っているのに、飲酒の口実を与えてしまっては元も子もありません。

アルコール依存症患者はこれまで、「お酒の失敗で後悔してやめようと思い、しかし何度やっても失敗してしまう」、という経験を何度も何度も何度も経験しています。彼らは本気でやめようと試みていました。

自分の人生を取り戻すために、断酒の経過を経るということは皆理解されていますが、

 

そもそも自分を許していない人が、断酒を継続するのは非常に難しいことなのです。

そもそも責任から逃げるクセがついている人が、自分の人生を取り戻すことはできないのです。

そもそも過去に縛られている人は、前に進むことはできないのです。

 

それらを本人も、支援者も知らずでは、回復が進むことなんてあり得ません。

そのステップは、自助グループにあります。参加することで、その力は養われてきます。

そこまで言っといても、結局自助グループに参加するかしないかは、本人次第です。

ですが、何度やっても失敗するということであれば是非自助グループに繋がってください。

 

AAは匿名の自助グループです。断酒会は実名での自助グループです。

 

アルコール依存症だけでなく、ギャンブル依存症やゲーム依存症や性依存症も自助グループが存在しますので

是非自分で調べて参加して見てください。

 

 

今回は以上です。次回はまとめです。

長文読了お疲れ様でした。