チャンスは一瞬だ
前髪を掴め!
天使は微笑んで去って行く
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2013年6月に動画投稿に対応したInstagramをはじめ、LINEの動画投稿対応、Vineアプリの日本語ローカライズなどにより、国内のスマホユーザーにも浸透しつつある動画編集・共有サービス。
そんな中、国内スタートアップのナナメウエが開発する動画編集アプリ『SlideStory』が好調を維持している。2013年10月にiOS版をリリース後、2カ月で40万ダウンロードとスタートダッシュに成功。同年12月にSkyland Venturesから3000万円の投資を受け、2014年2月には80万ダウンロードを突破と勢いは止まらない。
『SliedeStory』では、32秒という時間の中で、写真のスライド、または動画をつなぎ合わせ、専用の音楽つきショートムービーを作成できる。作成したムービーはユーザーの端末に保存され、SNSでのシェアをワンタッチで行うことが可能だ。

「動画コンテンツの将来性に賭けて作ったのが、『SlideStory』です」と語る瀧嶋氏
「アプリのダウンロード数を上げるための魔法みたいな方法はないと思います。80万ダウンロードは、当たり前のことをコツコツやった結果です」
そう語るのは代表取締役の瀧嶋篤志氏。青山学院大学在学中にゲームアプリ開発会社でエンジニアリングを学び、卒業後の2013年5月に同級生と共にナナメウエを設立した。
設立後は、写真加工アプリなどの自社サービス開発と受託開発を並行。HONDAが2012年11月にリリースした動画編集アプリ『RoadMovie』の流行に、「動画コンテンツの将来性」を感じた瀧嶋氏は、SlideStoryの開発に着手した。
冒頭に挙げたように、競合アプリがひしめく「写真/ビデオ」カテゴリで着実に成果を積み上げているナナメウエ開発陣。その成長を支える、開発プロセスを紐解くと、4つのSTEPに分かれることが分かった。
STEP1:反面教師を集め、優れたUIを学ぶ
STEP2:予算やユーザーの声より、アウトプットの質にこだわる
STEP3:レビューを書いてもらう仕掛けを作る
STEP4:常にメンバー間で3つ先のビジョンまでを共有する
以下、具体的にどのようにこれらのSTEPを実践しているか、順を追って見ていこう。
まず最初に瀧嶋氏が着手したのは、質の高いアプリの大原則となるUI設計。SlideStoryは極めてシンプルな操作で、動画を編集することができるUIを目指した。
「『気付いたら、動画ができあがっていた』ぐらいに簡単な操作で動画が作れるUIになっています。意識したのは、ユーザー側のアクションを明確化し、導線を一直線にすること。提示されたアクションに対して行動するだけで、何も考えなくても動画が完成するようになっています」
ともすれば、複雑な操作を必要だと思われがちな動画編集アプリに対するハードルを下げるために生まれたUI。そうした設計は、リリース前には、ほぼ完成していたという。
「リリース前の開発段階で、ひたすら類似アプリのUIを分析しました。『次にすべき行動が分かりづらい』、『ボタンの視認性が悪い』、『無駄な画面遷移を強いられる』、など、ほかのアプリに対しての改善点をピックアップしたのです。そうした、反面教師をもとに、SlideStoryのUI設計を行いました」
UI設計後に大事になってくるのは、最終的なアウトプットの質を高めること。SlideStoryでいえば、完成された動画の質を高めることだ。
瀧嶋氏は、質の高い動画に必要な要素を探る際にも、SNSでバズった動画や『YouTube』などで再生数の多い動画の分析することから始めた。
「SlideStoryでは動画の尺を32秒に限定しているのですが、これはSNSで見るにはちょうどいい長さだと分析したからです。あとは、スライドがめくれる時のアニメーションも、結婚式ムービーをはじめとした感動系の動画を研究して、試行錯誤しながら作りました」

アプリをシェアすることで、使用できる音楽が増えるというキャンペーンも行っている
質の高い動画に必要な要素を洗い出し、アウトプットのクオリティを上げていったナナメウエ。数ある要素の中でも最終的に一番重要とされるのは、「BGM」だという。
SlideStory開発陣は、UI設計、アウトプットのクオリティに関する研究・分析を行うことで、2カ月間で40万ダウンロードという結果を出すことに成功した。加えて、「スマホ向けアプリが飽和状態の今、最初に触ってもらう瞬間が勝負。そこでどれだけいい第一印象を与えられるかが明暗を分ける」と語る瀧嶋氏。
数少ないチャンスをモノにするために、ナナメウエが行ったような、入念な事前準備が必要なことが分かる。
アプリのクオリティを上げた後、必要になってくるのは、いかにユーザーの目に触れる機会を増やすことだ。そのための仕掛けもSlideStoryにはちりばめられている。
「ユーザーにレビューや動画のシェアを促すポップアップを表示しています。しかし、ただ闇雲に表示していては、UXを著しく下げる要因になる。そのため、表示のタイミングや頻度などは試行錯誤を繰り返して決めました。結果、動画編集後や、閲覧後など、シェア意欲が高く、操作が一息つくタイミングを狙って表示するようにしています」
レビューを書いてもらうからには、当然、チェックも怠らない。
AppStoreのレビューやSNSでのユーザーの声を参考にアプリを調整し、2週間に1回はアップデートを行っている。その結果、2014年2月には80万ダウンロードを達成した。

ユーザーにストレスを与えないタイミングで表示されるレビューへの誘導画面。こうした小さな工夫の積み重ねがDL増加につながる
こうしたPDCAを繰り返す中で、瀧嶋氏は「3つ先のビジョンを持つ」ことを大切にしているという。
「3つ先のビジョンを持ち、ロードマップを描くのは、大切なことだと思っています。ビジョンがあれば、作業目的が明確化し、開発スピードの向上につながります。また、メンバー間での意見のズレをなくすため、新しいビジョンはメンバー全員でアイデアを出し合い決めています」
メンバー全員で決めたという、3つ先のビジョンとは何なのだろうか?
「次のステップとして、3月には完成した動画をサーバーで保存できるようにバージョンアップを予定しています。そうすれば、バックアップも取れるし、保存容量を大きくしてマネタイズも図れる。その次は、毎日使って楽しいと思える機能の追加。ユーザー継続率を高める狙いです。最後はクローズドでの動画共有機能の実装。ライバルが多い分野ですが、既存ユーザーとのつながりと質の高いアウトプットで勝負したいです」
今回の取材で、瀧嶋氏が語ったアプリ開発に関するノウハウは、堅実で予算をかけず誰にでもできるものばかり。そうした、「当たり前のことをサボらずにやる」ことこそが瀧嶋氏、ひいてはナナメウエの開発ポリシーだ。
「バズワードを拝借していうと、僕らがやっているのは『誰でもできるグロースハック』なんだと思います。特別、難しいとか、斬新な施策をしているわけではない。押さえるべきツボをきちんと押さえ、質の高いアプリを作る。そうすれば、80万人のユーザーを獲得できるし、ユーザーにアプリを通して良い体験を提供できるのです」
アプリが乱立状態にある中でも、基本に忠実に質の高いアプリ開発を行えば、ユーザーの獲得が可能だということを証明したSlideStory。「誰でもできるグロースハック」を実践する、ナナメウエの開発ポリシーは、多くのアプリ開発者にとって参考になるはずだ。
ここ最近、個人の関心や嗜好に合わせて情報を紹介するキュレーションサービスが人気だ。Amazonのような大手ECサイトで利用が進む「レコメンド」や「キュレーション」技術を情報配信分野に応用したサービスだが、このカテゴリーの中で、特に注目を集めているサービスがある。
それが、現役東大大学院生3人が立ち上げた『Gunosy(グノシー)』だ。

自らを「スマートなパーソナルマガジン」と命名している『Gunosy』
人気を集めている理由は、その手軽さと推薦情報の的確さにある。
ユーザーが『Gunosy』を利用するにあたって唯一すべきことは、最初にFacebookもしくはTwitterのアカウントを利用してサービスサイトにログインすることだけ。
あとは『Gunosy』独自のレコメンドエンジンが、過去にユーザーがポストした投稿内容の傾向やソーシャルグラフ内でのアクティビティを分析し、ユーザーの関心を惹くと思われる情報を毎日自動でメール配信してくれる。
そのため、ユーザーが「自分の欲しい情報の種類」をあらかじめタグなどでチェックする手間も一切発生しない。こうした徹底したシンプルさによって、『Gunosy』人気は口コミで広まっている。
現在『Gunosy』は、2011年10月25日のサービス開始以来、今年12月時点で約3万人のユーザーを獲得。今秋には法人化も果たしている。
同社で開発に携わるのは、事業統括とインフラ回りを担当するCEO福島良典氏のほか、アプリケーション回りの開発を担当している吉田宏司氏と、分析やレコメンドエンジンの開発を担う関喜史氏だ。

(写真左から)『Gunosy』開発の中心メンバーである吉田宏司氏、福島良典氏、関喜史氏
3人とも院生ではあるが、それぞれソーシャルゲーム、求人サイト、人物検索サイトを手掛ける会社で開発アルバイト(およびインターン)経験を持っている。
開発チームを率いる福島氏は、『Gunosy』開発の背景について、「2011年の8月ごろ、学部時代の同級生である吉田と関を誘って、自分たちの勉強になればという思いで開発を始めたが、どうせやるなら簡単にマネできないサービスを作ろうと思っていた」と話す。
『Gunosy』開発当時、すでにソーシャル上のアクティビティを活用したキュレーションサービスがいくつか存在していたが、そのほとんどは自分のSNSタイムライン上で「つながりのある人の間で話題になっている情報」を配信するというもの。
そこで『Gunosy』は、ユーザーのソーシャルグラフではなく、あくまで自分自身の過去のポストやソーシャル上のアクティビティを分析対象とした。
3人が大学院で勉強していたデータマイニングの技術を駆使すれば、ソーシャル上で流通しやすいメジャーなニュースばかりではなく、「例えばサーチエンジンだと検索結果の100ページ目に掲載されているようなマイナーな情報」(福島氏)も含めて、ユーザーにとって重要な情報を取り出すことができると考えたからだ。
「これまでのネットでは、情報を検索する際に『キーワード』を考える必要がありましたが、これってネットリテラシーの高い人をさらに高くするためのやり方だと思うんです。『Gunosy』が目指すのは、必ずしもそうでなくて、普通の人でも有益な情報がすぐに得られる仕組みを作ることなんです」(関氏)
『Gunosy』は自らを“パーソナルマガジン”と呼んでいるが、これも、「新聞のように誰もが受動的に情報を得られる世界を作りたい」(福島氏)という思いがあってのことだという。

データマイニングに話が及ぶと、国内外の最新事例を織り交ぜて専門的な会話が飛び交う。これも彼らの勉強の証だ
では、サービスの肝となるレコメンドエンジンは、どんな設計思想で作られているのか。
「よく誤解されるんですが、そもそもレコメンドエンジンって、あらゆるドメインで汎用的に使えるものは存在しないんです」(関氏)
学部生時代からデータマイニング研究に勤しんできた関氏によると、「Amazonのレコメンドエンジンが優れているのは、データマイニングの最新技術とECサービス開発が一体になって進められているから」だと言う。
サイトの種類によって、ユーザーの行動パターンは違ってくる。だから、提供するサービスごとにユーザー行動の「真意」を掘り起こし、寄り添うようにチューニングを重ねなければ、優秀なレコメンドエンジンにはなり得ない。
「ですから、僕たちも『Gunosy』のレコメンドエンジンを開発するにあたって、オリジナルのアルゴリズムを設計して改善に務めています。今動いているエンジンは、『Gunosy』リリース当初に設計したエンジンとはまったく別物と言えるほど、進化しているんです」(吉田氏)
具体的にどこを改善したかは「企業秘密なので言えない」(福島氏)そうだが、データマイニングの最新論文などに目を通しながら、「メジャーな記事からRSSにも入ってこないような記事までを網羅的に引っ張ってくるアルゴリズム」(吉田氏)に日々アップデートしている。
「例えば以前の『Gunosy』は、Web上でより多くの人に読まれた記事を『重要度の高い情報』として認識していました。でも、人気記事の中から『ユーザーの興味のないものをリジェクトする』発想だけでは、意外性や多様性は生まれないだろう、と。今は、このロジックを前提にしつつ、さらにユーザーの動向によって情報の抽出精度を可変できるようにチューニングしています」(関氏)

『Gunosy』から定期的に届くメールの例。中から気になった記事をクリックすると…
ユーザーの動向とは、例えば『Gunosy』から送られてきた情報の中で、その人がどんな種類の記事をクリックしたか? など。
つまり、ユーザーが『Gunosy』経由で気になる記事をクリックすればするほど、「アナタの興味」を学んでいく。ユーザーそれぞれのアクションに応じてレコメンドの精度が高まっていくという、“進化し続けるエンジン”となっている。
ソフトウエアでこれを実現していること自体がスゴいが、今後さらにユーザー数を伸ばすには、まだまだ乗り越えなければならない壁があると3人は考えている。
「現在の『Gunosy』は3万人にとっては良いサービスかも知れませんが、完成度として50%くらいだと思っています。スマートフォンが普及して、一般的なネットリテラシーの人にも使っていただくためには、『100万人が満足するレコメンドエンジン』を作らなければならない。それをどんなモデルで実現すべきかを考えるのが、これからの課題です」(福島氏)
課題はほかにもある。ユーザーの嗜好に則ったものを提供するだけでは、レコメンドエンジンが果たすべき役割をまっとうしたことにはならないからだ。最近議論が盛んになってきた「フィルターバブル問題」である。
「『フィルターバブル問題』というのは、情報の偏りがユーザーに不利益をもたらすのではという懸念を示すものです。例えば今のフィルタリング技術だと、ユーザーの嗜好や過去のアクティビティに合致しない情報はすべて排除されますが、排除されている情報の中にも耳を傾けるべき内容はあるはずです。この問題にエンジン側がどう対処するかが、これからの課題になるでしょう」(関氏)
そして、3人の挑戦は『Gunosy 』の精度を高めることだけにとどまらない。来春をローンチ目標として、『Gunosy Career(グノシー・キャリア)』という新サービスの準備も進めている。

『Gunosy Career』のティザーサイトには、利用イメージを紹介するムービーも掲載されている
ターゲットは、その名の通り転職市場。11月にティザーサイトがオープンしたばかりだが、さっそく巷で話題になっている。
「『Gunosy Career』をやろうと考えたのは、求人のレコメンドはニュースレコメンドと“解き方”が似ているから。とはいえ先ほど申し上げた通り、レコメンドエンジンは異なるドメインでも汎用的に使えるものではありません。『Gunosy』本体とは別の進化を遂げることになります」(関氏)
「僕たちは、解決した時に社会的なインパクトが大きいドメインを開拓するのが好きなんです。転職市場は、データマイニング技術を応用すれば劇的に改善できる分野の一つ。求職者が職務経歴書を書いたり転職サイトに登録する手間だけでなく、企業が選考にかける金銭的、時間的コストも大幅に圧縮できるはずですから」(福島氏)
それまで「ヒト」がコストを投じて行っていた分野を、「機械」で解決したい――。それが、彼らを開発に向かわせる原動力だそうだ。Webサービスとキュレーション技術は、今後いっそう密接な関係になることが予想されている今、グノシーの面々はそのど真ん中へ斬り込もうとしている。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

今年5月に弊誌が取材した際、堀江貴文氏はグルメ系サイトの立ち上げにかかわっていると語っていた。
この構想が11月3日、堀江貴文氏プロデュースのグルメアプリ『テリヤキ』として正式にリリースされた。すでに多くのメディアで取り上げられている通り、店舗やユーザーがグルメ店を評価するのではなく、堀江氏を含むキュレーターが推薦する店舗を紹介するアプリである。
このアプリの企画段階から参加し、プロデューサーの堀江氏とともに開発の主体を担ったのが、編集長を務める蛭田一史氏、そして開発を手掛けたランウェイの片田武利氏である。
グルメアプリをリリースすることになったきっかけ、そして堀江氏ならではのプロジェクトの進め方など、開発チームだけが知る“開発裏話”から、ホリエモン流の仕事哲学を探る。

グルメアプリ『テリヤキ』編集長
蛭田一史氏
Webコンサルティング、Web制作を手掛ける株式会社ロックヒルの代表取締役として、さまざまな案件にたずさわる。当初はWeb制作の担当として堀江氏のテリヤキプロジェクトに参加、そこからテリヤキが形になるにつれテリヤキにかかわるすべてを 統括する立場になり、テリヤキ株式会社の代表取締役社長となる

株式会社ランウェイ 代表取締役
片田武利氏
Webサイト構築やモバイルアプリ作成など、さまざまな受託案件を手掛けるITマネジメント企業として、ランウェイを2011年に立ち上げる。その制作実績の豊富さや、開発のスピード感を買われ、今回の『テリヤキ』プロジェクトの開発役として依頼を受ける
当初は、既存の店舗紹介や口コミサイトとは異なるアプローチのグルメサイトを立ち上げられないかという構想だったという。それがスマホ向けのアプリ開発へと進展していったのは、堀江氏自身が「欲しいモノを作る」という発想が原点にあった。
「企画の最初からもリリースしてからもそうですが、堀江さんはあくまでも『自分が欲しいモノを』というのがすべての判断基準でしたね。堀江さんもほかのインタビューなどで話していますが、お金のことはほとんど考えずに進んだプロジェクトでした(笑)」(蛭田氏)
その後、蛭田氏のほかに『東京いい店うまい店』(文芸春秋)の編集長・柏原光太郎氏や、TBSのプロデューサー住田興一氏、エイベックス所属のクリエイティブユニット『ROISSY(ロワシー)』のしんどうこうすけ氏・及川紀子さんなど、業界の垣根を超えてメンバーが集まり出す。
そこで「堀江氏と何か面白いことを」と会話を進めるうちに、『テリヤキ製作委員会』が立ち上がり、片田氏もジョインすることになったのだという。
2人が堀江氏と協働したテリヤキプロジェクトで強く印象付けられたのは、「堀江氏のサービスに対するコミットの強さ」と口をそろえる。具体的に驚いたのは次の3つだ。
●アウトプットに対するフィードバックの異常なスピード感
●ブランクを感じさせないスマホユーザー目線
●人をその気にさせる巻き込み力
それぞれについて、開発過程を辿りながら紐解いていこう。

「他にやる人がいなかった」という消去法で編集長に選ばれたと自称する蛭田氏
テリヤキのリリースは前述のとおり11月3日。
実は、当初はアプリではなくサイトを立ち上げる構想だったため、7月ごろにはサンプルページも作られていたという。
だが「本当に欲しいモノを」という前提を突き詰めた結果、“アプリに特化したメディア”を製作することになったそうだ。
堀江氏はじめ制作委員会メンバーの多忙なスケジュールを付き合わせた結果、この日のリリースはずらせなかった。
「はっきりとアプリ開発を始めることになったのが9月の半ばごろ。正直、リリースが間に合うか不安になるスケジュールでしたが、堀江さんに、『難しいところがあったらオレやるから』と言われてしまってはもうやるしかない、と。実際、堀江さんにコードレビューをお願いすると、デバッグまでご自身でされて、フィードバックがあるんです。通常の開発案件とはスピード感が違いましたね」(片田氏)
「夜中に送ったものが、翌朝じゃなくて夜のうちに戻ってくるんです(苦笑)」と片田氏が言うほど、アウトプットに対するフィードバックの速さには、時に開発陣が助けられた。テリヤキの開発過程では、堀江氏からの連絡は24時間体制。まさに絶え間ないキャッチボールが続いたという。

「連絡は基本的に『LINE』のグループでのやりとりだったのですが、それが24時間いつでも来る、という感じでしたね。堀江さんって、人と話している時でもスマホを操作しているじゃないですか。たぶん、やるべきことを常に同時進行でこなしちゃってるんです。『気付いたらすぐに手を付ける』のスピード感がハンパない。しかも本人は速いと思ってないんですよ」(蛭田氏)
今でもLINEの連絡は毎日あるほど、濃密なコミュニケーションを取るのには、堀江氏と仕事をする側としても理由がある。
1つは、ほかにもさまざまな案件に携り多忙を極める堀江氏にテリヤキを後回しにしないでもらうため。そしてもう1つは、堀江氏から湧くように出てくるアイデアを具体的にサービスに落とし込む間に、開発陣と堀江氏の間にズレが出ないようにするためであった。
テリヤキのアプリ開発にあたって、堀江氏が参考にしていたUI/UXが『Antenna』というニュースアプリだという。ユーザーのほしい情報を多彩なニュースソースなどから収集して表示する、デザイン性の高いアプリだ。
「本当にうまい店を探せるということは、店舗側が課金できる既存の検索サイトでは無理ですよね。本当にうまい店だけが載っている雑誌みたいにしたいというコンセプトも『Antenna』に近かったんです。表示方法や操作性でも、ユーザーにストレスがないUIで、かなり参考にさせていただきました。あのアプリでできること、表示速度も実現したいというのは最低限のミッションでしたね」(蛭田氏)
今年3月下旬に仮出所するまで約1年9カ月、堀江氏はスマートフォンをはじめアプリやSNSの世界から隔絶されていた。この間のデバイスとサービスの進化は未知の領域であるはずにもかかわらず、ここまで徹底したユーザー目線を持っていることには2人とも驚かされたという。

「仮出所してから、ものすごい勢いでスマホを使ってキャッチアップして、エンジニア、プロデューサーの視点でさまざまなアプリやサービスを実際に試して独自の分析や評価をしているんだと思います」(片田氏)
いざエンジニアがアプリ開発に携わると、多様な技術やツールを用いて、できるだけ多くの機能やメニューを盛り込もうと考えがちだ。ところが堀江氏は、「できるだけシンプルに、必要な機能だけを」と求めることが多かったという。
「テリヤキが既存のサイトやアプリと違うのは、あくまでキュレーターが選んだ店舗をユーザーに分かりやすく的確に伝えること。それをいかにユーザーにとってストレスなく使ってもらうことができるかが一番大きなこだわりポイントでした」(蛭田氏)
「毎日いろいろな指摘が飛んでくるのですが、どれもユーザーにいかにストレスを感じさせないかっていう基準からブレない。裏側の事情として、リリース日を守りたいという都合もあったのですが、『それを理由に検証が甘い』とか、細部の妥協も必ず気付いて指摘されるんです」(片田氏)
開発者としての知見も持ちながら、しっかりユーザー目線に立てるのが堀江氏の強み。いったん1つのプロジェクトを進めると決めたら、最後までコミットし続ける強さが“オーラ”の源と言えそうだ。
加えて、無事リリースされた後も徹底してユーザーの声を受け止める。堀江氏はTwitterなどSNSによる発信力だけでなく、受信力も高いのだという。
「Twitterやレビューへの投稿にもよく目を通していて、それをどう反映させるかもガンガン指示が飛んできます。堀江さんを天才と言う方が多いですが、あの人は愚直なまでにユーザー目線で見て、必要なサービスにすることに一番徹底しているんですよ」(蛭田氏)
さらに2人が堀江氏の姿勢に驚かされたのが、「人を巻き込み、動かす力」だという。
「きつい口調で指示するトップダウン型みたいなイメージがありそうですが、まったくそんなことありません。不思議なんですけど『こんなアプリだったらいいなぁ』って堀江さんが話すと、だんだんと周りの人たちを同じ考えにさせていっちゃうんです。それも前向きなビジョンとして語るので、いつの間にかみんなのモチベーションも高くなっていくんですよね。それはスゴイなと思いました」(蛭田氏)

ITバブルがはじける前のベンチャー企業の勢いを思い出せたと語る片田氏
「日常的に受託開発を行うエンジニアは開発を“仕事”ととらえていて、どこか客観的な姿勢になりがちです。でも堀江さんは違いますね。情熱というかコミット力というか、とにかく強いエネルギーを発しながら1つのモノづくりに取り組んでいる。
その姿にわれわれも巻き込まれていっちゃう感じです。何より、堀江さんと仕事したことで、ITバブルがはじける前の勢いあるベンチャーの感覚を思い出せて、楽しかったですね」(片田氏)
こだわるところは徹底的にこだわるが、ほかのメンバーに任せる部分がゼロだったわけではない。「それでいいんじゃない?」と軽いノリで決まっていったものも多々あるという。
「絶対に自分で決めたい」というワンマンプロデューサーではない点も、人を巻き込む上で大事なポイントなのだろう。
その一例として、アプリのネーミングを考えている時のエピソードを、蛭田氏が苦笑しながら語ってくれた。
「日本らしい“味”の1つとして世界でも定着する名前を、という意味を込めたいというのは決まっていたんです。そこでわたしが提案したのが『ONIGIRI』でした。そうしたらもう全員から反対されまして(笑)。たぶん、最初に否定したの堀江さんなんですよ。それで何かみんなも『おにぎりってそんなおいしそうに聞こえないしね』みたいな空気になって、ボツになったんですけど、そういう雰囲気作りというか、人の心を動かすのが本当にうまいんです」(蛭田氏)
最終的に、テリヤキ製作委員会の及川氏が提案した『テリヤキ(TERIYAKI)』が採用され、リリースから約2週間で3万DL(12/5時点では4万DLを越えている)という実績を上げたが、「堀江さん的にはまだ満足できる数字じゃないんです」(蛭田氏)という。
その言葉通り、海外進出やキュレーターの公募など、堀江氏は早くも次の事業展開を考え始めている。
さらなる発展を期して、製作委員会は正式に株式会社化し、代表には蛭田氏が就任することも決定した。堀江氏の“本格復帰”第一弾としてサービスインしたアプリ『テリヤキ』の今後に要注目だ。
取材/根本愛美(編集部) 文/浦野孝嗣 撮影/柴田ひろあき