冬の奈良公園 | 閑話休題

 冬の奈良公園

  奈良公園は良い。喧騒の巷と化した京都に比ぶれば、古都の風情は奈良の方が数段上である。

 奈良公園が春日神社の神地であったため、今日まで乱開発は免れた。惜しむべくは明治の維新期、興福寺一条院跡地の一等地に、県庁・裁判所などの公舎が建てられ、往古の春日野の風情を台無しにしたのは,当時の為政者の大失策で、その見識の差が今日の京都との差を招いた。

 

 京都に比べて奈良は静かで、特に観光客の少なくなる冬の奈良公園は、1300年の古代を再現してくれている。東大寺から左に戎壇院を経て裏の講堂趾に廻り、三笠山に向かう大湯屋の風情ある坂道を三月堂に出て、さらに三笠山の山麓に沿って南に行き、奈良公園飛火野を巡る散歩道には、天平の昔が今なお息づいている。

 それも夕暮れ時になると、一層古代が近くなる。ことに冬の清澄なる夕べ、月影を踏んでで散策し、瞑想し、万葉の歌を口ずさめば、古代の奈良の詩情が蘇ってくる。東大寺や興福寺、その他の古寺は、幾たびか兵火を受けながらも、古代さながらに再興され、御寺には優れたみ仏たちが居ます。

 奈良は古典的優雅、静謐、それに孤高を守って、今も私たちの心を癒し続けてくれている。

 

   夕去れば奈良の冬陽は寂しかり  み寺の廂も低くなりぬる

   奈良奥の浅茅ヶ原の群すすき 物語めく年の暮れかな

   冬空のたそがれ三笠の土産店 人招きつつ戸を閉じており

   目閉づれば木沓木魚の音聞こゆ 水取りの夜の夢近き寺

   ひとつこむ二つを翳し三つと打つ 奈良の都の夢の跡かな

   一点鐘池に響きて大仏の 灯影夢にゆるがむとする