アルプス最後の登山・北穂岳 | 閑話休題

アルプス最後の登山・北穂岳

 山登りの魅力は消えなかったが、78歳になって体力も低下し、その上心臓弁取り換えを宣告されていて、これが最後のアルプス登山と自覚して、テントと食糧を持って、私の大好きな北穂高に向かった。

 始めは上高地でテント。いつ来ても気持ちの良いテント場で、共同風呂もあるし、食料の補給もできる。私はひと夏大阪の熱帯夜を逃れて、何回も上高地でテント生活をし、日中は周辺の山々に登っていた。

 翌日早朝テントをたたんで梓川を遡行。横を山荘から横尾谷を遡って、4時頃涸沢に到着。直ぐに申し込んで岩場にテントを張り、食事準備をすませて休息。夏場のピークではなかったので、さほどテントは並んでいない。眼前に北穂高が聳えている。

 

 日本アルプスを私の好みで好きな山を尋ねられたら、北穂高が一番と答えるだろう。山麓も2,400mの森林限界を超え、手招きすればすぐそこに聳えている。登山道も直登に近いが、岩場の足場もよく、登りやすい。その上頂上の展望はアルプス随一である。

 私は日本について考える時、国土の大半を占める山岳があることによって、獣・木の実・山菜、それに綺麗な水が山から流れ出して田圃を潤し、主食のコメが豊富に造られ、四面に面した海からは、新鮮な魚介類に恵まれる、世界一素晴らしい環境に育っていることを感謝している。

 北穂高はそういった日本の山の中で、上品で、美形で、群峰の中で孤高を守って聳え

立っている。いつ来ても心が洗われる。 頂上からは北アルプスが眼下に一望され、昔歩いたアルプスの山々が懐かしく思い出させれる。

 北穂高はこれで3度目だ。始めは北穂小屋が建て替え中の時であったが、主人の第一印象が感じ悪くて泊まることを控えたが、二度目は槍ヶ岳・南岳を経由して大キレットを越えて小屋に着いたが、泊まらずそのまま横尾山荘まで下山した。小屋の東にベランダがあり、そのテーブル席は、大キレットから槍ヶ岳か、鎌尾根を見渡される、日本最高の見晴らし台といっても過言ではない。

 三度目の今日北穂との最後だと思うと残念だ。思い出を残そうと山頂を徘徊した。その後下山し、前日のテントで2泊、翌日はかねて一度は泊まりたかった明神池の畔の、上高地で一番古く由緒ある「嘉門次小屋」に泊まった。上高地一番で、明治の雰囲気が残され、夜は名物のイワナ焼きを頬張り、暖炉を囲んで親父の話も面白かった。記念に嘉門次小屋と書かれた二合徳利を土産に買って、私の長かった北アルプス登山の記念品とした。新しいロッジ風に建て替えずに、改修しても明治の面影を残して頂きたい。この小屋こそが、日本アルプスの山岳文化財とも言えるものだから。

 

  

           テント場より北穂高を望む                   北穂高岳山頂、奥に槍ヶ岳