『井戸ばたで』 詩 金子みすゞ
お母さまは、お洗濯、
たらいの中をみてみたら、
しゃぼんの泡にたくさんの、
ちいさなお空が光ってて、
ちいさな私がのぞいてる。
こんなに小さくなれるのよ、
私は魔法つかいなの。
何かいいことして遊ぼ、
つるべの縄に蜂がいる、
私も蜂になってあすぼ。
ふっと見えなくなったって、
母さま、心配しないでね、
ここの、この空飛ぶだけよ。
こんなに青い、青空が、
わたしの羽を触るのは、
どんなに、どんなに、いい気持ち。
つかれりゃ、そこの石竹の、
花にとまって蜜吸って、
花のおはなしきいてるの。
ちいさい蜂にならなけりゃ、
とても聞こえぬおはなしを、
日暮まででも、きいてるの。
なんだか蜂になったよう、
なんだかお空を飛んだよう、
とても嬉しくなりました。